あらすじ
大手家電メーカーに勤める俊介は一見順風満帆だったが、妻・昭子との関係は冷え切り、子どもたちとの関係も破綻していた。
そんな中、同居する父・俊太郎が認知症を発症する。
俊介は出世を犠牲にして家族を連れ出し、父の故郷へと旅に出る。
旅の途中で父の記憶を辿りながら、家族はかつての絆を取り戻していく。
特徴・見どころ
「家族」という当たり前の存在が、少しずつバラバラになっていたとしたら。
本作『サクラサク』は、シンガーソングライター・小説家である、さだまさしさんの短編小説を原作とした、家族再生の物語です。
認知症を発症した父親との「旅」を通じて、壊れかけた家族が再び絆を取り戻していく姿を、温かく、そして切なく描いています。
さだまさしさんならではの、人間の弱さと強さ、そして愛情の機微を捉えた視点が光る作品です。
「忘れる」父と、「忘れていた」家族の絆
主人公・俊介(緒形直人)は、仕事一筋で家庭を顧みない日々を送っていました。
その結果、妻・昭子(南果歩)との関係は冷え切り、家族の会話は途絶えがちです。
そんな「崩壊寸前」の家庭に、俊介の父親・俊太郎(藤竜也)の認知症という、重い現実が突きつけられます。
認知症の症状により、徘徊や不可解な行動を繰り返すようになる父。
最初は戸惑い、現実から目をそむけようとする俊介ですが、父がなぜか「サクラ」に異常なほど執着していることに気づきます。
父が失いつつある記憶の中に隠された「サクラ」の謎が、物語を大きく動かしていくのです。
父の記憶をたどる旅が、家族の時間を動かす
本作は、父の故郷を目指す「ロードムービー」の形式をとっています。
父が失っていく記憶と、忘れていた「サクラ」の思い出をたどるかのように、家族は一台の車で旅に出ます。
この旅の過程こそが、本作の最大の見どころです。
ぎこちない空気で始まった旅ですが、美しい日本の風景の中、父と向き合い、妻と本音でぶつかり合うことで、俊介の心境は変化していきます。
認知症の父親を演じる藤竜也さんの、切なくも愛おしい姿は、観る者の胸を強く打ちます。
時に子供のように無邪気でありながら、ふとした瞬間に「父」の顔を見せる。
その存在が、冷え切っていた緒形直人さんと南果歩さん演じる夫婦の間に、凍っていた時間を溶かし始めるのです。
介護の現実と、再生への希望
認知症がきっかけで始まった旅は、皮肉にも、家族が「家族」であった頃の温かい記憶を呼び覚ましていきます。
仕事や日常の忙しさの中で、俊介たちが見失っていた「本当に大切なもの」とは何だったのか。
介護と家族という重いテーマを扱いながらも、決して暗くならず、さだまさしさんらしい人間味あふれる視点で希望の光を描き出します。
観終わった後、自分の家族に少し優しくなれるような、温かい涙があふれる感動作です。









