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あらすじ
アルツハイマー病が進行中の元教授ジョンと、末期がんに侵されている妻エラ。
夫婦生活は半世紀を迎え、子どもたちも巣立ち、人生の責任を果たしきった2人は、自分たちだけの時間を過ごそうと決意する。
ジョンが敬愛するヘミングウェイが暮らした家のあるキーウエストを目指し、愛車のキャンピングカーで旅に出る。
毎晩思い出のスライド写真でこれまでの人生を振り返りながら、2人はひたすら南を目指して進んでいく。
特徴・見どころ
もし、人生の最期に残された時間が、決して長くはないと知ったら。
そして、最も愛するパートナーが、病によって自分を忘れつつあるとしたら。
本作『ロングロングバケーション』は、アルツハイマー病の夫と、末期がんの妻という、過酷な現実を抱えた老夫婦の「最後の旅」を描いた、傑作ロードムービーです。
この物語が観る者の心を掴んで離さないのは、主演のヘレン・ミレンとドナルド・サザーランドという二人の名優が、ただ「可哀想な老夫婦」を演じているのではないからです。
彼らが演じるのは、人生の終着点を目前にしながらも、施設や病院での延命ではなく、自らの意志で「楽しみ」を求め、思い出のキャンピングカーで旅に出ることを選んだ、ユーモアと愛にあふれた夫婦です。
名優が体現する「老老介護」のリアルと尊厳
夫のジョン(ドナルド・サザーランド)は、元大学教授で知性にあふれた人物ですが、アルツハイマー病によって、記憶は曖昧になり、時に妻・エラ(ヘレン・ミレン)のことさえ分からなくなってしまいます。
妻のエラは、そんな夫を献身的に支えますが、彼女自身も末期がんに侵され、痛みと闘っています。
まさに「老老介護」の現実が、そこにはあります。
ドナルド・サザーランドは、知的な紳士であった頃の面影と、認知症によって無邪気な子供のようになってしまう姿の「揺らぎ」を見事に表現。
そしてヘレン・ミレンは、夫への深い愛情を持ちながらも、迫りくる病と夫の症状に、時に苛立ち、時に絶望しそうになる、人間の強さと脆さの両方を圧倒的なリアリティで演じきっています。
家族(息子たち)の心配を振り切り、「“楽しみを求める人(The Leisure Seeker)”」と名付けられた古いキャンピングカーに乗り込む二人。
この旅は、彼らにとって最後の「尊厳」をかけた冒険でもあるのです。
ユーモアと涙で綴る、人生最後の美しさ
旅の道中は、決して平坦ではありません。
夫ジョンの症状は、旅の最中にも進行していきます。
夜中に突然混乱したり、妻を置いてどこかへ行ってしまったりと、ハプニングの連続です。
しかし、妻のエラは、そんな夫を時にユーモアでいなし、時に厳しく叱咤し、二人だけの旅を続けようとします。
本作の白眉は、二人が毎晩キャンピングカーで、過去の家族旅行のスライドショーを見るシーンです。
スライドに映し出される若き日の自分たちや、子どもたちの姿。
夫ジョンは、その映像を見ても記憶が蘇らないこともありますが、二人は確かに「同じ時間」を共有し、慈しんできました。
認知症によって記憶は失われても、積み重ねてきた人生と愛情の「事実」は消えない。
そんな二人の姿が、静かに、しかし力強く描かれます。
悲観的になるのではなく、過去の思い出をエネルギーに変えて、人生の最期を自分たちらしく締めくくろうとする二人。
老老介護の現実を描きながらも、それ以上に夫婦愛の輝きと人生の美しさを描き出した、深く心に残る感動作です。









