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あらすじ
金沢の老舗料亭で育った三姉妹、紫、藍、茜。
祖母が亡くなり久々に顔を揃えた3人は、遺言で驚きの事実を知る。
それは、数年前に亡くなったと教えられていた母・美津子が存命であるという内容だった。
19年前の夫の死をきっかけに酒に溺れ、富山の介護施設にいる美津子は、アルコール性認知症を患い、娘たちを思い出すこともできずにいた。
三姉妹は、母から受けた心の傷を思い出しながら、長年苦しんできた過去と向き合っていく。
特徴・見どころ
本作『カノン』は、比嘉愛未さん、ミムラさん、佐々木希さんという、今を時めく三人の女優が「三姉妹」として競演し、家族の「再生」と「赦し」という重いテーマを描き切った、深く胸に響く感動作です。
この物語が、他の多くの家族の物語と一線を画すのは、彼女たちが向き合う「母」が、単に病気であるというだけではない点にあります。
彼女たちの母親・美津子(鈴木保奈美)は、かつてアルコール依存症であり、その影響からアルコール性認知症を患っています。
娘たちにとって、母は「愛すべき対象」であると同時に、幼少期に自分たちを深く傷つけ、心にトラウマを残した「憎むべき対象」でもありました。
本作は、そんな複雑な愛憎を抱えた三姉妹が、母の「今」と「過去」に触れることを通して、長年の心の傷を乗り越え、自分たちの人生を取り戻していく姿を描いています。
「アルコール性認知症」という、過去の清算
本作が光を当てる「アルコール性認知症」は、一般的な加齢による認知症とは、その背景が異なります。
アルコール性認知症は、長期間にわたるアルコールの多量摂取によって、脳内のビタミンB1などの必要な栄養素が欠乏し、脳の機能が障害されることで引き起こされます。
つまり、母・美津子の現在の病状は、彼女がアルコールに溺れていた「過去」と、分かちがたく結びついているのです。
鈴木保奈美さんが演じる母・美津子は、認知症によって多くを忘れ、まるで無邪気な少女のようになっています。
しかし、娘たちにとって、母のその姿は、かつて自分たちを苦しめたアルコール依存症の姿と重なります。
なぜ、母はアルコールに溺れなければならなかったのか。
その壮絶な人生と、アルコール依存症と認知症の関係が、物語のミステリーのように、少しずつ解き明かされていきます。
三姉妹、それぞれの「心の傷」
本作のもう一つの見どころは、三姉妹それぞれの葛藤です。
富山で暮らす次女・藍(比嘉愛未)、東京で主婦として生きる長女・紫(ミムラ)、金沢で料亭の若女将として働く三女・茜(佐々木希)。
一見、それぞれが自立した人生を歩んでいるように見えて、彼女たちの心は、常に「母に捨てられた」という過去のトラウマに縛られています。
母との再会は、彼女たちが封印してきた心の傷を、容赦なくえぐり出します。
「今さら母親ヅラしないでほしい」という憎しみ。
「それでも、ほんとうは愛されたかった」という渇望。
比嘉愛未さん、ミムラさん、佐々木希さんは、この愛憎の狭間で揺れ動く三姉妹の複雑な心情を、見事に演じ分けています。
「カノン」が繋ぐ、家族の赦しと再生
バラバラだった三姉妹と母。
その心を再び結びつけるのが、本作のタイトルにもなっている、パッヘルベルの「カノン」です。
「カノン」は、一つの旋律を、別のパートが一定の間隔を置いて「追いかけていく」輪唱形式の楽曲です。
この「追いかける」という構造が、本作のテーマと深くリンクしています。
過去から逃げていた娘たちが、母の過去を「追いかけ」、その真実を知ろうとすること。
そして、かつて母から教わったピアノという共通の記憶が、彼女たちを再び繋ぎとめるのです。
劇中、三姉妹が三台のピアノで「カノン」を奏でるシーンは、本作のハイライトであり、圧巻の一言です。
最初はぎこちなく、ずれていた旋律が、次第に重なり合い、美しいハーモニーを生み出していく。
それは、言葉にできなかった憎しみや悲しみが、音楽を通して「赦し」へと昇華されていく瞬間であり、家族が再生していく奇跡の音色です。
本作は、アルコール依存症と認知症という重い現実を背景にしながらも、家族が長年抱えてきたトラウマと向き合い、再び愛を取り戻すことは可能であるという、力強い希望を私たちに示してくれます。
家族愛の本質とは何かを、深く問いかける感動作です。









