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あらすじ
横須賀で楽器店を営みながら、時折地元のステージで歌声を披露して喝采を浴びてきたユーモアたっぷりで人気者の哲太。
かつて歌手を夢見ていたが、息子のためにその夢を諦めた過去を持つ。
ある日、アルツハイマー型認知症と診断されてしまう。
徐々に記憶を失っていく父に動揺する息子・雄太だったが、歌っている時の父は昔のままであることに気付く。
全てを忘れゆく父を繋ぎ止めたのは、彼を信じ支え続けた息子、強く優しい母、強い絆で結ばれた仲間、そして父が愛した音楽だった。
特徴・見どころ
2016年、イギリスで投稿されたある動画が、世界中で大きな話題となりました。
認知症の父親と息子が、車の中で楽しそうに歌を歌う姿。
「The Songaminute Man」として知られるその感動の実話をモチーフに、舞台を日本に移して描かれたのが、本作『父と僕の終わらない歌』です。
メガホンを取ったのは、『タイヨウのうた』や『ちはやふる』シリーズなど、音楽と人間の瑞々しい感情を描くことに定評がある小泉徳宏監督。
記憶を失っていく父と、不器用な息子。
音楽が架け橋となって再び繋がる親子の絆を、温かく、そしてドラマチックに描き出した感動作です。
16年ぶりの映画主演・寺尾聰と、松坂桃李が魅せる「親子の距離」
本作の大きな見どころは、なんといっても主演の寺尾聰さんと、その息子役を演じる松坂桃李さんの演技の化学反応です。
寺尾聰さんは、本作が実に16年ぶりの映画主演作。
アルツハイマー型認知症を患い、日常生活もままならなくなっていく老いた父を演じています。
しかし、その姿を悲壮感たっぷりに演じるのではなく、時にユーモラスに、時に愛らしく演じることで、人間の尊厳と「生きる力」を見事に表現しています。
一方、そんな父にどう接すればいいのか戸惑う息子を演じるのは、松坂桃李さん。
仕事や人生に悩みながら、介護という現実に直面する息子の葛藤と成長を、等身大の演技で体現しています。
ぎこちなかった二人の距離が、物語が進むにつれて少しずつ縮まっていく様子は、観る者の心に静かな感動を呼び起こします。
「歌」が呼び覚ます記憶と、家族の輝き
認知症の症状が進行し、昨日のことさえ忘れてしまう父。
しかし、彼には魔法のような瞬間が訪れます。
それは、息子と一緒に、昔好きだった歌を口ずさむ時です。
歌っている時だけは、父の瞳に光が戻り、記憶の霧が晴れたかのように、昔のままの活き活きとした表情を見せるのです。
本作における「音楽」は、単なるBGMではありません。
失われゆく記憶を繋ぎ止め、言葉では伝えきれない親子の想いを運ぶ、重要な「会話」の手段として描かれています。
ミュージシャンとしても活躍する寺尾聰さんならではの、説得力ある歌唱シーンと、それがもたらす奇跡のような瞬間は圧巻です。
実話だからこそ響く、介護の「希望」の形
介護は、辛く苦しいものとして描かれがちです。
しかし、この実話を基にした物語は、そこに「楽しむ時間」や「共有できる喜び」があることを教えてくれます。
たとえ多くのことを忘れてしまっても、感情や心は残っている。
そして、工夫次第で、家族はまた笑い合うことができる。
本作が提示するのは、認知症とともに生きる家族の、一つの希望の形です。
音楽が持つ癒しの力と、どんな時でも途切れることのない親子の絆。
観終わった後、大切な家族に会いたくなる、そんな温かい愛に満ちた作品です。









