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はじめに:その「ぼんやり」は認知症ではないかもしれません
2026年2月9日は「世界てんかんの日(International Epilepsy Day)」です。
「てんかん」と聞くと、子供の病気だと思っていませんか?
あるいは、突然泡を吹いて倒れる激しい発作をイメージされるかもしれません。
しかし今、超高齢社会の日本で急増しているのが、65歳以上で発症する「高齢者てんかん」です。
その症状は非常に穏やかで、「数分間ぼんやりする」「口をもごもごさせる」といったものが多く、認知症と間違われて見過ごされているケースが少なくありません。
もし、ご家族の「認知症のような症状」が、実は「てんかん」だったとしたら――。
適切な治療を行えば、劇的に改善する可能性があります。
この記事では、世界てんかんの日にちなみ、誤解されがちな「てんかん」の正体、高齢者特有の症状、そして認知症との見分け方について徹底解説します。
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2月9日は「世界てんかんの日」。紫色のリボンに込められた願い

100人に1人の身近な病気
「世界てんかんの日」は、てんかんに対する正しい知識を普及させ、差別や偏見をなくすことを目的に、国際てんかん協会(IBE)と国際抗てんかん連盟(ILAE)によって制定されました。
毎年2月の第2月曜日と定められており、2026年は2月9日にあたります。
世界中で約5,000万人、日本国内にも約100万人(およそ100人に1人)の患者さんがいると推計されています。
これは決して珍しい病気ではなく、誰がいつなってもおかしくない、非常に身近な脳の病気です。
テーマカラーは「ラベンダー(紫色)」。
孤独を感じやすい患者さんを「一人にしない」というメッセージが込められています。
聖ヴァレンタインとてんかんの意外な関係
実は、2月14日のバレンタインデーで有名な「聖ヴァレンタイン」は、てんかんのある人々を庇護した守護聖人としても知られています。
世界てんかんの日が2月に設定されているのは、この聖ヴァレンタインにちなんでいるとも言われています。
なぜ今、「高齢者てんかん」が増えているのか?
「てんかんは子供の病気」というイメージは、過去のものです。
グラフで見る発症のピーク(U字型カーブ)
てんかんの発症年齢をグラフにすると、3歳以下の乳幼児期と、60歳以上の高齢期に二つの大きな山がある「U字型」を描きます。
近年の調査では、高齢化に伴い、新たに診断されるてんかん患者の中で最も多いのは高齢者であることがわかっています。
最大の原因は「脳血管障害」と「加齢」
子供のてんかんは先天的な要因や原因不明のものが多いのに対し、高齢者のてんかんは原因がはっきりしているケースが大半です。
- 脳血管障害(脳梗塞・脳出血) : 脳の血管が詰まったり破れたりして脳細胞が傷つくと、その部分が電気回路のショートを起こしやすくなります。
脳卒中経験者の約5〜10%がてんかんを発症すると言われています。 - 認知症(アルツハイマー型など) : アミロイドβなどの蓄積により神経細胞が変化し、てんかんの原因となります。
- 頭部外傷 : 転倒などで頭を強く打った古傷が、数年後に発作の原因になることがあります。
「泡を吹いて倒れる」だけじゃない!高齢者に多い発作の特徴
てんかん発作は、脳の神経細胞が一時的に過剰な電気興奮を起こすことで生じます。
高齢者の場合、脳全体が一気に興奮する「全般発作(大発作)」よりも、脳の一部から興奮が始まる「焦点発作(部分発作)」が圧倒的に多いのが特徴です。
焦点意識減損発作(複雑部分発作)とは
高齢者てんかんの典型的な症状がこれです。
派手に倒れることは少なく、一見すると「ぼんやりしているだけ」に見えます。
- 動作が止まる(数分間)
- 呼びかけても反応がない、視線が合わない
- 口をもぐもぐさせる、服をまさぐる(自動症)
- その後、何事もなかったかのように戻るが、その間の記憶がない
家族が見逃してはいけない「5つのサイン」
日常の中で、以下のようなエピソードが繰り返される場合は、てんかんを疑う必要があります。
- 食事中に突然箸が止まり、数分間フリーズする。
- 会話の辻褄が合わないことが、一時的に起こる。
- テレビを見ている時、急に一点を見つめて反応しなくなる。
- 理由もなく、口をペチャペチャ鳴らしたり、手で何かを探すような仕草をする。
- これらの症状が「数分」で治まり、後はケロッとしている。
【最重要】「てんかん」と「認知症」はどう違う?
ここが最も重要なポイントです。
高齢者てんかんの症状(記憶が飛ぶ、反応がない、徘徊のような行動)は、認知症の症状と非常によく似ています。
そのため、専門医でないと見分けがつかず、認知症と誤診されてしまうケースがあります。
症状の現れ方の違い(波がある vs 徐々に進行)
| 特徴 | 高齢者てんかん | 認知症 |
|---|---|---|
| 症状の出現 | 発作的・一時的 (数分〜数十分で元に戻る) | 慢性的・持続的 (徐々に進行し、常に症状がある) |
| 1日の変動 | 良い時と悪い時の差が激しい。 発作がない時は普段通りしっかりしている。 | 1日の中で多少の変動はあるが、基本的には認知機能が低下した状態が続く。 |
| 記憶障害 | 発作中の記憶だけがスポーンと抜ける。 (エピソード記憶の欠落) | 最近の出来事全体を忘れる。 (体験そのものを忘れる) |
▼ てんかんと認知症のより詳しい違いや関係性については、以下の記事もご参照ください
子どもから高齢まで発症リスクのあるてんかん。特に高齢者てんかんは認知度が低く、認知症を疑って受診する方が多いです。では、高齢者てんかんと認知症の違いはどこにあるのでしょうか?本記事では、高齢者てんかんと認知症について以下の点を中[…]
「てんかん性健忘」という落とし穴
さらに判断を難しくするのが、「てんかん性健忘」や「非けいれん性てんかん重積」です。
これは、目立った発作がないにも関わらず、脳内で弱い電気発射が持続的に起きている状態です。
常に脳がノイズにさらされているため、新しいことを覚えられなくなり、一見すると急速に進行する認知症のように見えます。
しかし、これは「認知症」ではなく「てんかん」の影響による機能低下であるため、抗てんかん薬を使えば劇的に記憶力が回復することがあります(Treatable Dementia:治療可能な認知症)。
診断と治療:高齢者てんかんは「治りやすい」?

「てんかん」と診断されるとショックを受ける方もいますが、高齢者てんかんには明るい側面もあります。
それは、「小児や若年者に比べて、薬が非常によく効く」という点です。
脳波検査とMRIの重要性
診断には、問診に加え、脳の電気活動を調べる「脳波検査」と、脳の傷や病変を調べる「MRI検査」が不可欠です。
特に、家族がスマホなどで「発作中の様子を動画撮影」して医師に見せると、診断の大きな助けになります。
少量で効く?薬物療法の現在
高齢者は代謝機能が落ちているため、通常よりも少ない量の「抗てんかん薬」で発作を抑制できることが多いとされています。
約7〜8割の患者さんは、薬を服用することで発作を完全にコントロールし、これまで通りの生活を送ることができます。
ただし、ふらつきや眠気といった副作用が出やすいため、医師と相談しながら慎重に薬の種類と量を調整することが大切です。
もし目の前で発作が起きたら?正しい介助方法
高齢者のてんかん発作は静かなものが多いですが、時には倒れてけいれんすることもあります。
いざという時のために、正しい対応を知っておきましょう。
落ち着いて行う3つのステップ
- 安全の確保 : 倒れた時に頭を打たないよう、クッションや上着などを頭の下に入れます。メガネは外します。
- 気道の確保 : 嘔吐物で窒息しないよう、顔と体を横に向けます。
- 時間を計る : 発作が何分続いているかを確認します。
やってはいけないNG行動
- 口に物を入れる : 「舌を噛まないように」と割り箸やタオルを入れるのは昔の迷信です。
窒息や歯が折れる原因になるため、 絶対に口には何も入れないでください。 - 体を揺さぶる・抑えつける : 無理に止めようとすると、骨折や筋肉損傷の原因になります。
- 大声をかける : 意識が戻るまでは静かに見守りましょう。
救急車を呼ぶべきタイミング
- 発作が 5分以上 続く場合
- 発作が治まっても意識が戻らないうちに、次の発作が起きた場合
- 頭を強く打ったり、怪我をした場合
- 初めての発作で、原因がわからない場合
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まとめ:正しい知識が、あなたと家族の未来を守る
てんかんは、特別な人がなる病気ではなく、誰の脳にも起こりうる「電気系統のトラブル」です。
特に高齢者においては、脳卒中や認知症と並んで注意すべき一般的な疾患となりつつあります。
もし、ご家族に「急にぼんやりする」「認知症にしては進行が早すぎる」「良い時と悪い時の差が激しすぎる」といった様子が見られたら、一度神経内科や脳神経外科、あるいはてんかん専門医に相談してみてください。
2月9日、世界てんかんの日。
この機会に「高齢者のてんかん」について正しく知り、もしもの時に備えることは、大切なご家族の健康寿命を守る大きな一歩になるはずです。
- 日本てんかん学会「てんかん専門医ガイドブック」
- 厚生労働省「てんかん対策周知プログラム」および日本神経学会「てんかん診療ガイドライン2018」
- 国立循環器病研究センター「脳卒中後のてんかん」
※本記事は一般的な健康情報の提供を目的としており、特定の治療法を推奨するものではありません。症状がある場合は医師にご相談ください。







