※本記事は、長野県および厚生労働省が公表した令和7年度予算案、補正予算資料、各補助金交付要綱等の一次情報に基づき、政策的見地から情報を整理したものです。
「健達ねっと」による情報紹介であり、特定の制度利用を推奨するものではありません。
実際の申請にあたっては、必ず長野県の最新の行政通知をご確認ください。
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序論:複合的危機に対する「長野モデル」の政策的応答

長野県における医療・介護行政は今、かつてない過酷な経済環境に直面しています。
2025年後半から2026年初頭にかけて展開されている支援パッケージは、国の「デフレ完全脱却のための総合経済対策」を原資としつつ、県独自の一般財源を大胆に組み合わせた「ハイブリッドな政策体系」となっています。
予算規模と最優先配分
令和7年度補正予算案(国レベル)では、全国で約1兆3,649億円という巨額の予算が「医療・介護等支援パッケージ」に充当されました。
長野県においても、2026年1月に提示された補正予算案で、医療・福祉体制の確保に向けた直接支援金として 約13億3,211万円 が計上されています。
この約13億円という規模は、県がこの支援を単発の給付ではなく、社会インフラを維持するための「恒常的なコスト」として認識していることの証左です。
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物価高騰対策の深層:長野県独自の算定ロジック
長野県の物価高騰対策支援金は、病院、介護施設のみならず、薬局や施術所、歯科技工所まで網羅する広範なセーフティネットを構築しています。
施設類型別の「基本額+加算額」構造
令和7年度(2026年1月補正分)の支給基準は、固定費の比重が高い入所施設と、移動コストの影響を受ける訪問系サービスの違いを明確に反映した「二階建て構造」を採用しています。
【表1】施設類型別の支給額構造
| 施設類型 | 基本額(定額) | 加算額(規模連動) | 支援のロジック |
|---|---|---|---|
| 入所・入院施設 | 10万円 | 病院:1床2万円 高齢者:1人2,000円 障害者:1人2万円 | 24時間の空調・照明・食材費高騰を補填。 |
| 通所・外来・薬局 | 6万円 | なし | 日中の空調コストや医療機器の電気代を支援。 |
| 訪問系・施術所等 | 2万円 | なし | 主にガソリン代の高騰に対する支援。 |
注目すべきは、障害者福祉施設の加算が定員1人につき 2万円 と、高齢者施設(2,000円)の10倍に設定されている点です。
これは、障害福祉分野における人員配置の厚みや、経営基盤の脆弱さを県が重く受け止め、重点的な保護を図っていることを示唆しています。
「ガソリン代」支援への特化:山岳県ならではのリアリズム
長野県の物価高騰対策において、最も際立つ特徴は「ガソリン代」への明確な予算措置です。
中山間地域が多い本県では、訪問介護や訪問診療の移動コストは社会インフラ維持に直結します。
- 訪問系サービスへのメッセージ: 基本額2万円の層に対し、「ガソリン代」を使途として明記。
- モビリティ支援: 別途、生活困窮者向けに「ガソリン緊急支援(約1.7億円)」として5,000円の給油券配布等も実施。
これにより、医療・福祉の「担い手」と「受け手」双方の移動手段を確保する包括的な施策となっています。
賃上げ支援と人材確保:ブランディングによる差別化
人材不足の構造的解消に向け、長野県は金銭的支援(ハード)と、働きやすさの評価(ソフト)の両輪を回しています。
介護職員処遇改善支援補助金の完全電子化
「処遇改善加算の一本化」の移行期における激変緩和措置として、県独自の補助金を運用しています。
- 電子申請の徹底: すべての手続きを「ながの電子申請サービス」に集約。
- 法人一括管理: 事務負担軽減のため法人単位の申請を推奨し、県全体での賃上げ履行状況を厳格にモニタリングしています。
「信州福祉の職場づくり認証制度」の戦略的意義
賃上げ原資が限られる中、長野県は「選ばれる事業所」になるための認証制度を展開しています。
- 採用ブランディング: 認証マーク(信州ふくにん)の使用や、就職フェアでの優先確保。
- 育成コスト削減: 県社協の生涯研修への優先受講枠の確保。
- コンサル活用: 第三者による客観的な労務管理アドバイス。
生産性向上とICT・ロボット導入支援(DX)
人口減少下でのサービス維持の切り札が、ハードの導入から運用定着までを支援する「介護テクノロジー定着支援事業」です。
令和7年度 介護テクノロジー定着支援
単なる機器購入ではなく、「ケアモデルの変革」を目的としています。
- 予算規模: 介護分野 約3億2,712万円、障害分野 約1,474万円。
- 重点機器: 見守りセンサー、移乗支援ロボット、介護記録ソフト等。
従来の「事後通知型(マットセンサー)」ではなく、画像認識等で起き上がりを予知する「予測型見守り」の導入を支援。
これにより、夜間巡回の回数を最適化し、職員の負担軽減と利用者の安眠を両立させています。
医療機関の生産性向上とタスク・シフト
医療分野でも 約12億7,069万円 という巨額予算が計上されています。
- 目的: 医師から看護師・事務員への業務移管(タスク・シフティング)の体制整備。
- 条件: DXによる効率化と、賃上げ(ベースアップ評価料)をセットで推進。
エネルギーコスト削減とグリーン化(GX)
物価高騰対策の「出口戦略」として、長野県はエネルギー需要そのものを減らす高効率設備への更新を強力にバックアップしています。
社会福祉施設等エネルギーコスト削減促進事業
補助上限 500万円 、補助率 3/4 という破格の条件で、施設の体質改善を図ります。
【表2】求められる技術基準(スペック要件)の例
| 設備区分 | 対象機器の例 | 求められる規格・基準 |
|---|---|---|
| 空調・換気 | 業務用エアコン、全熱交換器 | 省エネ基準達成率100%以上 |
| 照明設備 | LED照明(施設用) | JIS C 8106準拠、人感センサー推奨 |
| 給湯・ボイラ | ヒートポンプ、高性能ボイラ | ボイラ効率90%以上、CO2冷媒等 |
| 窓・断熱 | Low-Eガラス、真空ガラス | 熱貫流率(U値)の劇的改善 |
| 再エネ | 太陽光発電システム | 出力1kW以上50kW未満 |
長野県は「2050ゼロカーボン」を掲げており、「事業活動温暖化対策計画書」の提出が補助金申請の要件や加点事由となるケースがあります。
省エネ投資を、単なるコスト削減ではなく「地域貢献・ブランド力向上」へ繋げる戦略が求められます。
実務と行政DX:電子申請サービスの光と影
各種支援策のほぼすべてにおいて、申請方法が「ながの電子申請サービス」に一本化されました。
- メリット: 迅速な給付、リアルタイムな審査状況の把握、ペーパーレス化。
- 現場の課題: IT環境が乏しい訪問系事業所や、高齢の管理者にとっての高いハードル。
修正(変更申請)の期限が厳格であり、紙媒体のような「融通」が利きにくい点には注意が必要です。
結論:長野モデルが示す「防御から投資へ」の転換点

本報告書の分析を通じて明らかになったのは、長野県の政策が「緊急防御(物価対策)」から「未来投資(DX・GX)」へと完全にフェーズを移行させたという事実です。
- 物価高騰対策: ガソリン代支援を含む、地域特性を反映した精緻なセーフティネットの構築。
- 賃上げとブランド: 認証制度を通じた、金銭以外の付加価値による人材確保。
- 構造改革への投資: 補助率3/4という手厚い条件による、ランニングコスト低減と業務効率化の同時達成。
長野県内の医療・介護事業者の皆様は、これらの支援を単なる「ボーナス」として消費するのではなく、「2040年の労働力不足時代を生き抜くための軍資金」として活用してください。
県が提示するこの「長野モデル」を自組織内で実現できるかどうかが、令和8年度以降の存続を分かつ分水嶺となるでしょう。
- 長野県:令和6年度・令和7年度 補正予算案 概要資料
- 長野県:医療・福祉施設等物価高騰対策支援金(第2弾・第3弾)事務連絡
- 厚生労働省:介護保険最新情報 Vol.1448(医療・介護等支援パッケージ)
- 長野県:介護テクノロジー定着支援事業費補助金 実施要領
- 長野県:社会福祉施設等エネルギーコスト削減促進事業 募集要項
- 信州福祉・介護のひろば:認証制度の概要






