あらすじ
アメリカのソーシャルワーカー、ダン・コーエンは考えた。
認知症患者が自分の好きな歌(パーソナル・ソング)を聴くことで、音楽の記憶とともに何かを思い出すのではないか、と。
94歳の認知症患者ヘンリーは、娘の名前すら思い出せずふさぎこんでいた。
しかし好きな曲を聴いた途端、彼は陽気に歌い始め、仕事や家族のことまで饒舌に語り出した。
他の患者たちも音楽療法によって劇的な変化を見せる。
「1000ドルの薬より1曲の音楽を」――人間が失われた記憶を取り戻す奇跡の瞬間を捉えたドキュメンタリー。
特徴・見どころ
音楽が持つ「力」を、あなたは信じますか。
本作『パーソナル・ソング』は、一曲の音楽が認知症の方の閉ざされた記憶の扉を開き、生きる喜びを呼び覚ます奇跡の瞬間を捉えた、感動のドキュメンタリー作品です。
2014年のサンダンス国際映画祭ドキュメンタリー部門で観客賞を受賞すると、その衝撃と感動は瞬く間に世界中へ広がりました。
スティーブン・スピルバーグ監督やトム・ハンクスといった著名人も深く感動し、支援を表明したことでも大きな注目を集めました。
これは、認知症ケアの新たな可能性を指し示す、希望の物語です。
音楽が呼び覚ます、失われたはずの記憶
このドキュメンタリーが観る者の心を強く揺さぶるのは、音楽が認知症の方々にもたらす「劇的な変化」を、ありのままに映し出しているからです。
物語の中心となるのは、ソーシャルワーカーのダン・コーエン氏が設立したNPO「ミュージック&メモリー」の取り組みです。
彼らは、介護施設などで暮らす認知症やアルツハイマー病の高齢者一人ひとりに対し、その人が若い頃に愛した「パーソナル・ソング」をiPodに入れて届けます。
長年、無気力で周囲への反応も薄く、会話もままならなかった方々。
しかし、ヘッドフォンから懐かしいメロディーが流れた瞬間、まるで魔法にかかったかのように彼らの表情が一変します。
目を閉じ、うつむいていた方が、はっと目を開き、リズムを取り、笑顔で歌い出すのです。
特に印象的なのは、重度の認知症でほとんど話すことができなかったヘンリーさんのエピソードです。
彼が愛したキャブ・キャロウェイの曲を聴いた途端、ヘンリーさんは生き生きと歌い、若い頃の思い出を鮮明に語り始めます。
その姿は、音楽が単なる娯楽ではなく、その人の人生やアイデンティティそのものと、いかに深く結びついているかを痛感させられます。
「その人だけの曲」が持つ、驚くべき力
なぜ、このような奇跡が起こるのでしょうか。
認知症が進行すると記憶障害などが現れますが、脳の中で音楽を処理する領域や、感情に結びつく長期的な記憶は、比較的最後まで保たれることが多いと言われています。
その人にとって思い入れの深い「パーソナル・ソング」は、脳の奥深くに眠っていた感情や記憶を呼び覚ます、強力な「鍵」となるのです。
本作では、音楽を聴くことで興奮や攻撃性が和らぎ、使用する薬の量を減らすことができたという事例も紹介されています。
これは、薬に頼るだけでなく、ご本人の「その人らしさ」を尊重した非薬物的なアプローチがいかに重要であり、大きな可能性を秘めているかを力強く示しています。
この作品を観ることは、アルツハイマーと認知症の違いや、様々な認知症の症状について知識として学ぶだけでなく、当事者の方々が何を感じ、何を求めているのかを深く理解する絶好の機会となります。
ご家族、介護者、すべての人に希望を
『パーソナル・ソング』は、認知症の介護に携わる方や、ご家族に認知症の方がいらっしゃる方に、大きな希望と具体的なヒントを与えてくれます。
ご本人の好きな曲を一緒に聴くだけで、閉ざされていたコミュニケーションの扉が、再び開くかもしれません。
もちろん、認知症に直接関わりがない方々にとっても、本作は深く心に響くはずです。
音楽が人にもたらす喜び、記憶と感情の結びつき、そして人と人との繋がりの尊さ。
私たちが忘れかけていた大切なことを、改めて思い出させてくれます。
観終わった後、きっとあなたはご自身の大切な人の「パーソナル・ソング」は何か、そして自分自身の「パーソナル・ソング」は何かを、探してみたくなるでしょう。
温かな涙とともに、生きる希望が湧き上がってくる。そんな珠玉のドキュメンタリーです。









