あらすじ
1950年代のオックスフォード大学で出会った哲学者・小説家のアイリス・マードックと文芸評論家のジョン・ベイリー。
アイリスの自由奔放な生き方に惹かれたジョンは、40年以上にわたり彼女を支え続ける。
しかし晩年、アイリスはアルツハイマー病に侵され、言葉を大切にしてきた作家が徐々に記憶と言葉を失っていく。
ジョンは献身的に介護を続け、最後まで妻への愛を貫く。
特徴・見どころ
「言葉」を武器に、知性の最前線で生きてきた人が、もしその「言葉」そのものを失ってしまったら。
本作『アイリス』は、英国で「最も素晴らしい女性」と称賛された実在の作家アイリス・マードックの、輝かしい知性と、病による記憶の喪失を描いた物語です。
ひとりの女性の人生を、若き日と晩年で二人一役という、卓越した手法で描き切った感動作です。
輝きと喪失、二人のアイリスが映し出す現実
本作の最大の特徴は、主人公アイリスを二人の名女優が演じている点です。
若き日の、自由奔放で才能あふれるアイリスを演じるのは、ケイト・ウィンスレット。
一方、アルツハイマー病に侵され、徐々に記憶と言葉を失っていく晩年のアイリスを、名優ジュディ・デンチが演じています。
この二つの時代が強烈な対比をもって描かれることで、観る者は、ひとりの人間の「輝き」と「喪失」の現実を突きつけられます。
あれほどまでに明晰だった知性が、病によってゆっくりと失われていく恐怖と切なさ。
まさしく「言葉」を生業(なりわい)としてきた彼女が、その言葉を紡げなくなっていく過程は、胸が張り裂けるような痛みを伴います。
アカデミー賞受賞の夫の視点が描く「夫婦の愛」
この物語は、アイリス本人だけの物語ではありません。
もう一人の主人公は、彼女を生涯愛し続け、支え抜いた夫のジョン・ベイリーです。
晩年のジョンを演じたジム・ブロードベントは、本作でアカデミー賞助演男優賞を受賞しました。
彼の演技がなぜ世界的に評価されたのか。
それは、輝かしい妻への賞賛だけでなく、病によって変わっていく妻を、それでも変わらずに愛し続ける「介護者」としての深い苦悩と、揺るぎない愛情を見事に体現したからです。
認知症の進行という過酷な現実を、ただ嘆くのではなく、真正面から受け止める夫の姿。
その視点を通して描かれる夫婦愛の深さこそが、本作の核となっています。
知的で情熱的だったアイリスも、病に侵されたアイリスも、すべてが夫にとっては愛すべき「アイリス」でした。
愛とは何か、夫婦とは何かを深く問いかける、重厚な傑作です。









