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カンヌ国際映画祭グランプリ「殯の森」生と死を見つめる静謐な物語

  • 公開/放送日:2007年6月23日

あらすじ

奈良の山間地にあるグループホームで、認知症を患った老人・しげきは、亡き妻の想い出を胸に静かな日々を過ごしていた。

そこへ新しく介護士としてやってきた真千子もまた、幼い子を亡くした深い悲しみを抱えて心を閉ざして生きていた。
ある日、しげきと真千子は森の中で道に迷い、一昼夜をともに過ごすことになる。

その時間の中で、二人は互いの喪失と向き合い、生と死の境界で魂の対話を重ねていく。
奈良の美しい自然を背景に、人間の生と死、そして再生を静謐に描いた物語。

特徴・見どころ

本作『殯の森』は、世界三大映画祭の一つ、第60回カンヌ国際映画祭において、日本の監督作品としては10年ぶりとなる最高賞に次ぐ「グランプリ」を受賞した、河瀨直美監督の傑作です。

本作は、認知症と向き合う作品でありながら、私たちが想像する一般的な「介護映画」の枠を、遥かに超えています。
これは、認知症という状態を一つの切り口としながら、人間にとって最も根源的で普遍的なテーマである「喪失と再生」、そして「生と死の連鎖」そのものを見つめた、深く静謐な映像詩です。

「殯(もがり)」が意味するもの

本作を理解する上で、非常に重要なのが『殯(もがり)』というタイトルの意味です。
「殯」とは、日本の古代葬儀儀礼の一つを指します。

大切な人が亡くなった後、すぐに埋葬(本葬)するのではなく、一定の期間、遺体を安置し、近親者がそのそばで別れを惜しみ、死者の魂と寄り添う儀式のことです。
それは、生きている者が、愛する人の「死」をゆっくりと受け入れ、自らの「生」へと再び歩み出すための、大切な「時間」であり「空間」でした。

本作は、この「殯」という行為が象徴する、「生と死のあわい(間)」の状態を描いています。
物語の登場人物たちは、まさにこの「あわい」に立ち尽くし、彷徨っています。
認知症介護の現実を描きながらも、その奥にある「魂の行方」にまで迫ろうとする、河瀨監督の強い意志が感じられます。

「喪失」を抱えた二人が誘われる、奈良の森

物語の主人公は、二人の「喪失」を抱えた人間です。
一人は、介護グループホームで暮らす認知症の老人・しげき(うだしげき)。

彼は、33年前に亡くなった妻のことが忘れられず、その「死」を今も受け入れられないまま、生きています。
もう一人は、そこで働く介護士の真千子(尾野真千子)。
彼女もまた、自らの幼い子どもを失ったという、癒えることのない「喪失」の痛みを、誰にも言えずに抱えています。

しげきを演じるのは、演技経験のない、実際の奈良の森の案内人である、うだしげきさん。
真千子を演じるのは、河瀨監督作品には欠かせない、尾野真千子さん。
この二人のリアリティ溢れる存在感が、観る者を深く物語の世界へ引き込みます。

ある日、しげきは亡き妻の墓を探すため、施設を抜け出して森へと入っていきます。
真千子は、必死で彼を追いかけますが、二人は森の奥深くで道を見失い、彷徨うことになります。
舞台となる奈良・東吉野村の雄大で、時に荒々しい自然。

河瀨監督のカメラは、その光、風、木々のざわめき、土の匂いまでもを、ドキュメンタリーのように生々しく捉えます。
この「森」は、単なる背景ではありません。
それは、生と死、此岸(しがん)と彼岸(ひがん)の境界線が曖昧になる、まさに「殯」の空間そのものとして機能しているのです。

「認知症」を「生と死のあわい」として描く

河瀨監督は、本作の制作の根底に、ご自身の「祖母の認知症介護」と、「出産・子育て」という、正反対の「生」と「死」に関わる体験があったと語っています。
認知症介護の現実と、人間の尊厳。
それらを描きながら、本作はさらに一歩踏み込みます。

認知症によって、現世との繋がりが徐々に薄れ、まるで「あちら側」の世界(=死)に近づいているかのように見える、しげき。
森での極限状態の中、しげきと真千子は、それぞれが抱える「死者」(しげきの妻、真千子の子)と、不思議な形で向き合い直すことになります。
それは、二人が「死」を受け入れ、残された「生」を再び歩み出すための、痛みを伴う「再生」の儀式(=殯)でもありました。

本作は、認知症を「病気」や「問題」としてだけ捉えるのではなく、この世界に生まれ、やがて死んでいくという「生命の連鎖」の大きな環(わ)の一部として、静かに、そして美しく描き出しています。
奈良の自然の圧倒的な美しさの中で、人間の「生と死の尊厳」とは何かを、観る者の心に深く染み入るように問いかける、日本が世界に誇る傑作です。

作品詳細

監督 河瀨直美
脚本家 河瀨直美
主要キャスト
上映時間 97分
放送局/制作 組画
日本,フランス

監修者 メディカル・ケア・サービス

  • 認知症高齢者対応のグループホーム運営
  • 自立支援ケア
  • 学研グループと融合したメディア
  • 出版事業
  • 社名: メディカル・ケア・サービス株式会社
  • 設立: 1999年11月24日
  • 代表取締役社長: 山本 教雄
  • 本社: 〒330-6029埼玉県さいたま市中央区新都心11-2ランド·アクシス·タワー29F
  • グループホーム展開
  • 介護付有料老人ホーム展開
  • 小規模多機能型居宅介護
  • その他介護事業所運営
  • 食事管理
  • 栄養提供
  • 福祉用具販売

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