日本の超高齢社会において、介護保険制度は私たちの生活と尊厳を守る最も重要な社会インフラです。
しかし、その制度が現在どのような状況にあり、どれだけの人々に利用され、どれほどの費用がかかっているのか、正確な全体像を把握している方は決して多くありません。
その全体像を最も正確に、かつ大規模なデータとして示しているのが、厚生労働省が毎月および毎年公表している「介護給付費等実態統計」です。
2026年現在、団塊の世代がすべて後期高齢者(75歳以上)となる「2025年問題」を通過し、日本の介護は高齢者人口がピークを迎える「2040年問題」という未知の領域へと足を踏み入れています。
介護・認知症・健康に特化した情報プラットフォームである『健達ねっと』では、この極めて重要な国の基幹統計データを読み解き、マクロな視点から見た日本の介護の現状と、ミクロな視点である「私たち家族の介護費用と備え」にどのような影響を与えるのかを完全保存版として徹底的に解説します。
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介護給付費等実態統計とは?(制度の基礎と目的)

「介護給付費等実態統計」とは、日本の介護保険制度において、「どのようなサービスが」「何人の利用者に」「どれくらいの費用(給付費)で」提供されているのかを網羅的に把握するための、厚生労働省による国の基幹統計です。
データ収集の仕組みと圧倒的な網羅性
この統計の最大の特徴は、アンケート調査のような一部の抽出データではなく、「全数データ」に近いという点です。全国の介護サービス事業者(施設や訪問介護ステーションなど)は、利用者にサービスを提供した後、介護報酬を受け取るために各都道府県の「国民健康保険団体連合会(国保連)」へ請求書(介護給付費明細書=レセプト)を提出します。介護給付費等実態統計は、この国保連で審査・確定されたすべてのレセプトデータを集計して作成されています。
なぜこの統計が重要なのか?
このデータは、単なる記録ではありません。
国の政策決定における「羅針盤」です。
3年に1度行われる「介護報酬改定」におけるサービス単価の引き上げ・引き下げの根拠や、各市区町村が定める「介護保険事業計画(次期に向けた施設整備の目標や、私たちが支払う介護保険料の算定)」は、すべてこの実態統計の数字をベースにシミュレーションされ、決定されています。
つまり、この統計を読むことは、「数年後の日本の介護ルールがどう変わるか」を先読みすることと同義なのです。
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最新データが示す「受給者数」と「費用」の爆発的増加
それでは、最新の年間データ(令和5年度および令和6年度の概況データ)から、日本の介護の「今」を見ていきましょう。
結論から言えば、利用者数・費用ともに過去最高を更新し続けており、制度の膨張が止まらない状況が浮き彫りになっています。
受給者数の推移(令和5年度・令和6年度比較)
統計データを見る際、「年間累計受給者数(各月の利用者の単純合算)」と「年間実受給者数(1年間に一度でも利用した人の実数)」の2つの指標がありますが、より実態を表す「年間実受給者数」で比較します。
| 指標(単位:千人) | 令和5年度(2023年度) | 令和6年度(2024年度) | 対前年度増減の傾向 |
|---|---|---|---|
| 年間実受給者数(全体) | 6,632.0 | 6,754.0 | 約1.8%の増加 |
| 介護予防サービス実受給者数 | 1,244.6 | 1,303.9 | 約4.8%の大幅増 |
| 介護サービス実受給者数 | 5,666.5 | 5,731.1 | 約1.1%の微増 |
このデータから読み取れる最大のポイントは、要介護1〜5の人が使う「介護サービス」の増加率(1.1%)に比べ、要支援1〜2の人が使う「介護予防サービス」の増加率(4.8%)が突出して高いということです。
これは、高齢化に伴い「まだ重度ではないが、生活のサポートが必要な軽度者」が激増していることを示しています。
介護費用の総額(14兆円時代への突入)
利用者が増えれば、当然ながら費用も膨張します。
令和5年度の介護保険の総費用ベース(予算ベース推計)は約13.8兆円でしたが、令和6年度には約14.2兆円へと到達しました。
この14.2兆円という途方もない金額は、半分が「公費(国・都道府県・市区町村の税金)」、もう半分が「私たちが毎月給与や年金から引かれている介護保険料(第1号・第2号被保険者)」で賄われています。
費用の膨張は、直結して「現役世代の保険料負担増」と「65歳以上の介護保険料の引き上げ」という形で、国民全体の家計に重くのしかかっています。
介護という言葉を耳にした時、下記のような不安や疑問が頭をよぎりませんか? 親のことが心配だけど、何から始めればいいか分からない… 介護にはどれくらいの費用がかかるのだろう? 仕事や自分の生活と、どうやって両立すればいい[…]
サービス種類別の利用動向(どこにニーズが集中しているか)
介護給付費等実態統計をサービス種類別(居宅・地域密着型・施設)に細かく分析すると、現代の高齢者や家族が何を求めているのか、明確なトレンドが見えてきます。
① 居宅サービス:医療ニーズの高まりと「訪問看護」の躍進
在宅介護の要となる居宅サービスにおいて、不動の利用数トップは「通所介護(デイサービス)」と「訪問介護(ホームヘルパー)」ですが、近年最も注目すべき伸びを示しているのが「訪問看護」です。
国が推進する「地域包括ケアシステム(住み慣れた地域で最後まで暮らす)」の浸透により、病院のベッドではなく、自宅で最期を迎える(看取り)、あるいは自宅で医療的ケア(胃ろうや痰の吸引など)を受けながら生活する高齢者が増加しています。
実態統計における訪問看護の請求件数・給付費の安定した増加は、在宅介護が「生活支援」から「医療との融合」へとシフトしている明確な証拠です。
② 地域密着型サービス:「24時間体制」への強い渇望
住み慣れた市区町村の住民だけが利用できる地域密着型サービスの中で、ひときわ存在感を増しているのが「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」です。
このサービスは、日中・夜間を問わず1日複数回の短時間の訪問と、緊急時のオペレーター対応を組み合わせたものです。
実態統計の月報データ等においても、このサービスの事業所数や請求件数は毎月着実に増加(例:令和6年4月審査分で事業所数1,311件と前月比プラス推移)しています。
「夜間に転倒したらどうしよう」「深夜のトイレ介助が家族だけでは限界」という、在宅介護最大の壁である「夜間の不安」を解消する24時間体制へのニーズが根強くあることが示されています。
③ 施設サービス:特養の重度化と老健の在宅復帰機能
施設サービスにおいては、「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム:特養)」の利用者が依然として高い水準にあります。
特養は原則として「要介護3以上」しか入所できないため、看取りを含めた終の棲家としての重度化が顕著にデータに表れています。
一方、「介護老人保健施設(老健)」は、病院から自宅へ戻るためのリハビリ施設という本来の役割を強化しており、実態統計における在宅復帰率等の加算取得状況から、入所者の入れ替わり(回転率)を意識した施設運営へのシフトが読み取れます。
令和6年度(2024年度)介護報酬改定の統計への影響
2026年現在の実態統計を語る上で欠かせないのが、令和6年度(2024年度)に実施された大規模な介護報酬改定の影響です。
全体改定率+1.59%と「処遇改善加算」の圧倒的影響
令和6年度の報酬改定は、全体で+1.59%のプラス改定となりました。
この数字だけを見ると微増に見えますが、その内訳は極めて特徴的です。
プラス分のうち、実に+0.98%が「介護職員の処遇改善(給与の引き上げ)」に充てられました。
全産業で歴史的な賃上げが進む中、介護業界から他業界への人材流出を食い止めるための、国の強烈な危機感が反映された結果です。
統計データに表れる「光と影」
この改定により、令和6年6月以降の実態統計データでは、各サービスの「1回あたりの請求単価」が明確に上昇しています。
- 光の側面:現場で働く介護職員の給与水準が実際に引き上げられ、人材確保に向けたプラスのサイクルが統計上の「加算取得率の向上」として表れています。
- 影の側面:介護報酬(サービス単価)が上がったということは、利用者が支払う「1割〜3割の自己負担額」も連動して値上がりしたということです。
実態統計が示す総費用の増加は、利用する高齢者世帯の家計を直撃しているという冷徹な事実を忘れてはなりません。
実態統計から逆算する「家族の介護費用のリアル」
国全体で14.2兆円という途方もないマクロデータは、私たち個人の家計(ミクロ)にどう影響するのでしょうか。
実態統計の数字と民間調査を掛け合わせることで、リアルな「家族の介護費用」が見えてきます。
介護にかかる費用の総額は「平均1,500万円超」の時代へ
生命保険文化センターの「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査」や、厚労省の直近の介護給付費等実態統計のデータを総合すると、一人の高齢者が介護を必要とする期間(平均約5年〜10年超)に発生する費用の総額は、平均して約1,532万円に達するという推計があります。
※(内訳の目安:公的介護保険からの給付額が約990万円、自己負担額が約542万円)
自己負担の約500万円強には、介護保険の1割〜3割負担分だけでなく、実態統計には表れない「保険外の費用(施設での居住費・食費、おむつ代、車いすの購入、通院のためのタクシー代など)」が重くのしかかっています。
要介護度が上がり、利用するサービス量が増えれば(統計データが示す通り、一人当たりの給付費は要介護度に比例して急増します)、この自己負担額はさらに膨れ上がります。
地域差(都道府県別)の傾向と「2040年問題」への課題
介護給付費等実態統計のもう一つの重要な機能は、都道府県や市区町村ごとの「地域格差」を可視化することです。
都市部の悲鳴と、地方の崩壊危機
- 都市部(東京・神奈川・大阪など):高齢者の「絶対数」が急増しています。
実態統計を見ると、受給者数の伸び率が全国平均を大きく上回っており、施設整備が全く追いついていません。
結果として、在宅系の居宅サービスや地域密着型サービスへの依存度が極端に高まっています。 - 地方・過疎地域:高齢化率(人口に占める割合)は極めて高いものの、人口減少により高齢者の絶対数すらも減少し始めています。
実態統計上、サービスの利用総量が減少に転じている地域もあり、これは「介護事業所の経営が成り立たず、撤退・倒産が相次ぐ(介護サービスの供給網が維持できない)」という深刻な危機を意味しています。
迫り来る2040年問題へのシフト
2025年問題(高齢者の急増)のフェーズは終わり、現在国が最も警戒しているのは、高齢者数がピークを迎える一方で、介護の担い手である現役世代(生産年齢人口)が激減する「2040年問題」です。
実態統計が示す「限られた人材で増大するニーズにどう対応するか」という課題に対し、今後はICT機器の導入や、科学的介護(LIFE)を活用した「生産性の向上」が、事業所継続の絶対条件となっていきます。
健達ねっと読者が今から備えるべき3つのステップ
ここまで解説してきた国の統計データや将来予測を踏まえ、介護に直面している、あるいは将来不安を抱える読者の皆様が「今すぐ取るべき行動」を3つにまとめました。
- 介護予防への積極的な投資(健康寿命の延伸)統計が示す通り、要支援者の「介護予防サービス」利用が急増しています。
要介護状態になるのを1年でも遅らせることが、最大の経済的・精神的防衛策です。
地域の体操教室、趣味の集まり、口腔ケア(オーラルフレイル予防)など、元気なうちから「社会参加」を継続してください。 - 「24時間対応」の地域密着型サービスの把握いざ在宅介護が限界に近づいた際、すぐに施設に入れるとは限りません。
統計データで伸びている「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」や「小規模多機能型居宅介護」など、ご自身の住む地域にどのような「切り札」となるサービス事業所があるのか、元気なうちから地域包括支援センター等で情報収集をしておきましょう。 - ケアプランと費用の定期的な見直し令和6年度改定によりサービス単価が上がったため、これまでと同じサービス内容でも、毎月の自己負担額がジワジワと上がっているはずです。
「本当に必要なサービスは何か」「過剰な利用になっていないか」、統計データを背景とした費用増の現実を受け止め、担当のケアマネジャーと定期的にプランの最適化を協議してください。
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まとめ
厚生労働省の「介護給付費等実態統計」は、無機質な数字の羅列ではありません。
675万人を超える高齢者と、それを支える家族、そして介護現場で奮闘する職員たちの「人生のリアル」が刻み込まれた、日本社会のカルテです。
総費用14兆円という巨大なシステムは、私たちの税金と保険料、そして現場の努力によってギリギリのバランスで成り立っています。
この客観的なデータを知ることは、メディアの不安を煽るニュースに惑わされることなく、自分と家族の身を守るための「正しい準備」を始める第一歩となります。
健達ねっとでは、今後もこうした国の重要データや制度改正の裏側を分かりやすく紐解き、皆様の介護生活の不安を安心に変えるための情報を発信し続けてまいります。
出典元・データ参照先(リンク)
※本記事のデータおよび見解は、以下の公的機関等の公式発表(2024年〜2026年時点の最新データ)に基づき作成しています。








