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はじめに:「手におえない」と諦めかけた日々
認知症のケアにおいて、ご本人の暴言や暴力、介護への強い拒否(BPSD:行動・心理症状)は、多くの介護職やご家族が直面する大きな課題です。
- 「何を考えているんだろう…」
- 「関わるのが怖い…」
- 「このままどうなるんだろう…」
埼玉県にある「愛の家グループホーム白岡」でも、ある一人の男性入居者様を前に、スタッフたちは自信を喪失しかけていました。
「できっこない」 そんな諦めの空気が漂っていた現場を変えたのは、スタッフたちの「知りたい」という情熱と、一人の人間として向き合う覚悟でした。
今回は、英男さん(仮名・75歳)とスタッフが共に歩んだ、奇跡のような1年間の記録をご紹介します。
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「二度と来るな!」孤独の殻に閉じこもった入居当初
英男さんがホームに入居された当初、その生活は荒れていました。
元工場勤務で、70歳まで現役で働いていた実直な男性。
しかし、認知症(脳梗塞・くも膜下出血・血管性認知症)を発症してからは感情のコントロールが難しくなり、ご家族とも衝突が絶えなくなっていました。
ホームでの生活も、決して穏やかなものではありませんでした。
- 引きこもり: 基本的に居室から出てこず、いつも布団をかぶっている状態
- 激しい拒絶: スタッフが声をかけると「なんだこの野郎!」「ふざけるな!」「二度と来るな!」と激昂し、時には椅子を投げることも
- 自己否定: 「どうせ自分なんて…」と、自身の容姿やだらしなさを責めるような発言の繰り返し
スタッフは怒鳴られる恐怖から、必要最低限の関わりしか持てなくなっていました。
「寝ているのだからそっとしておこう」
それは配慮のようでいて、実は「関わり」からの逃避だったのかもしれません。
「できっこない」を「やらなくちゃ」。マニュアルを捨てた日
「あれが本来の姿なのだろうか?」 スタッフの中に生まれた小さな疑問が、チームを動かしました。
「ここで立ち止まったら何も解決しない。本当の英男さんを知ろう!」
スタッフたちは、「できっこないを やらなくちゃ」を合言葉に、アセスメントシート(事前情報)だけに頼るのをやめ、「生の声」を聞くアプローチに切り替えました。
扉を強く閉められても、怒鳴られても、諦めずに話しかける。
来る日も来る日も、英男さんの「小さな好み」や「つぶやき」を拾い集めました。
見えてきた素顔。「レーズンパン」と「甘いコーヒー」
諦めずに関わり続ける中で、怒りの仮面の下に隠されていた、英男さんの魅力的な素顔が次々と見えてきました。
- こだわり: ジャズのレコード鑑賞、愛車のプリウス、タバコの銘柄はラーク
- 意外な一面: 女性のポニーテール、猫派(犬は嫌い)、朝風呂と熱いお湯
- 好物: レーズンパンと、「うんと甘い」コーヒー
「コーヒー、うんと甘くしておきましたよ」 そう言って差し出すと、少しずつ表情が和らいでいきました。
スタッフが「怖い対象」から「自分のことを分かってくれる人」に変わった時、英男さんの生活は劇的に変わり始めます。
壊れたテレビが繋いだ縁。「ここって意外と居心地いいんだよな」
ある日、英男さんの居室のテレビが壊れるというハプニングが起きました。
以前の英男さんなら激怒していたかもしれません。
しかし、彼はこう言いました。
「向こう(リビング)で見れるから、部屋になくてもいいや」
あんなに部屋に閉じこもっていた英男さんが、他者と談笑しながらリビングでテレビを見るようになったのです。
そして、ふと漏らした一言が、スタッフの胸を熱くしました。
「ここって、意外と居心地いいんだよな」
あれほど警戒し、怒りをぶつけていた場所を「居心地がいい」と感じてくれた。
それは、スタッフの想いが報われた瞬間でした。
近くのスーパーへレーズンパンを買いに行くのが日課になり、その手にはしっかりと好物が握られています。
写真に写るその表情は、別人のように穏やかです。
再会、そして「カメラやりたい」
生活の安定は、家族関係の修復にも繋がりました。
喧嘩が絶えず疎遠になっていた弟様が面会に来られた際、英男さんは穏やかにこう声をかけました。
「心配しなくていい。ここでゆっくりやってるから」
さらに、「新たにやりたいこと」も見つかりました。
「カメラやりたい」
昔の趣味だったカメラ。
スライドには、真剣な眼差しでファインダーを覗く英男さんの姿があります。
「自分なんて」と下を向いていた男性はもういません。
そこには、自分の人生を楽しみ、未来を見つめる一人の男性の姿がありました。
まとめ:その人は「寝ていた」のではなく「待っていた」
1年間の関わりを通して、愛の家グループホーム白岡のスタッフは一つの確信を得ました。
「英男さんは『寝ていた』のではなく、心の奥で誰かとの関わりをずっと待っていたのかもしれません」
布団の中で孤独と戦いながら、目に見えない不安や寂しさを抱えていた英男さん。
そのSOSが、当初は「暴言」や「暴力」という形でしか表現できなかったのかもしれません。
介護という仕事は、ただ食事や排泄のお世話をすることではありません。
その人の心の声に耳を傾け、その人らしく生きていくために何ができるかを一緒に考え、支え続けていくこと。
一見「できっこない」と思えることも、誰かが本気で信じて関わることで、変えることができます。
英男さんの最高の笑顔が、何よりの証明です。
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愛の家グループホーム 白岡

〒349-0212
埼玉県白岡市新白岡6-12-4
アクセス
JR東北本線 新白岡駅より徒歩14分
うぐす保育園の隣です
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ホーム長からのご挨拶

こんにちは!愛の家グループホーム白岡のホーム長、西山です。
白岡のモットーは明るく・楽しく・元気よく!です。
笑顔をつくるのが私たちの仕事です。
ご入居者様一人一人が気をつかわずわがままの言えるホームを目指し、その人のできることを大切にし日々過ごしていただいています。
ケアを行う上で必要なのは、技術や経験ではありません。
自分自身が楽しむことが一番だと思っております。
誰でも気軽に立ち寄れる、笑顔の絶えないホームであり続けることをここに誓います!






