認知症の「物盗られ妄想」はなぜ起こる?原因・心理的背景・NG対応と適切な接し方を解説

介護の中でも、特にご家族の心をすり減らさせる症状の一つが「物盗られ妄想」です。

「財布を盗まれた」「通帳を隠された」と、最も身近でお世話をしている介護者や家族が犯人扱いされてしまうため、「一生懸命介護しているのにどうして…」「疑われて辛い」と悲しみや怒り、強いストレスを感じる方も少なくありません。

結論から言うと、物盗られ妄想は意地悪や嫌がらせで言っているのではなく、認知症による記憶障害と「自分の大切なものを失う恐怖・不安」という不安心理が重なって引き起こされる症状です。

本記事では、物盗られ妄想が起こる原因と心理的背景をはじめ、症状が出た際の適切な接し方、やってはいけないNG対応、物盗られ妄想以外の妄想パターン、薬の副作用による影響まで詳しく解説します。

目次

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物盗られ妄想とは?認知症の周辺症状(BPSD)における位置づけ

物盗られ妄想とは、主に財布、現金、通帳、貴金属など、自分の財産や大切なものを「誰かに盗まれた」と思い込み、周囲に激しく訴える症状です。

認知症の症状は、脳の神経細胞が壊れることで直接生じる「中核症状(記憶障害や見当識障害)」と、中核症状を背景に心理的・環境的要因が重なって二次的に生じる「周辺症状(BPSD:行動・心理症状)」に分かれます。物盗られ妄想は、この周辺症状の代表例です。

物盗られ妄想の特徴
  • 対象物:財布、現金、通帳、印鑑、年金手帳、貴金属、衣類など価値あるもの
  • ターゲット:最も身近で頻繁に世話をしている家族や同居者、介護スタッフ
  • 本人の感覚:本人は100%「盗まれた」と信じ込んでおり、事実としてのリアリティを持っている

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なぜ起こる?物盗られ妄想の3つの原因と心理的背景

物盗られ妄想は、単なる思いつきや我が儘で始まるわけではありません。脳の機能低下と複雑な心理状態が絡み合って発生します。

1. 記憶障害(「しまったこと」自体の忘却)

認知症の代表的な中核症状である「記憶障害」により、新しい出来事を記憶にとどめておくことができなくなります。

本人は泥棒対策や防犯のために「大切なものだから頑丈な場所にしまおう」と考え、タンスの奥や布団の下、普段使わない引き出しに隠します。しかし、「自分がどこかにしまったこと」という体験・事実そのものを完全に忘れてしまいます。

手元から大切なものが消えた現実に対し、自分の物忘れを認められない心理(自己防衛本能)が働き、「自分は忘れていない。だから誰かが持って行ったに違いない」という結論に達してしまうのです。

2. 強い不安感・孤立感・自尊心の低下

加齢や認知症の進行に伴い、「一人でできることが減っていくもどかしさ」「周囲からお荷物扱いされているのではないかという疎外感」から、強い不安や孤独感を抱くようになります。

自分の社会的立場や居場所を失う恐怖から、「自分にとって一番大切な資産(財布や通帳)を守らなければならない」という警戒心が極限まで高まり、物盗られ妄想へ発展します。

3. なぜ最も身近な介護者(家族)が犯人にされるのか?

物盗られ妄想のターゲットにされるのは、多くの場合、一番親身に世話をしている同居の家族や主介護者です。

「なぜ一番尽くしている自分が疑われるのか」とショックを受けますが、これは「それだけ相手を意識し、頼りにしている存在だから」でもあります。関わりが薄い遠くの親戚や他人は日常的に財布のありかを知り得ないため、自分の領域に入り込める「最も身近な存在」に疑いの目が向けられてしまうのです。

物盗られ妄想が起きた時の適切な接し方・対処法

物盗られ妄想が始まった際、介護者が落ち着いて対応するためのポイントです。

適切な対応の4ステップ
  1. 否定せず「大変だね」と感情を受け止める
  2. 「一緒に探そう」と味方になる姿勢を示す
  3. 本人が自分で発見できるようにそっと誘導する
  4. 介護者一人で抱え込まず、プロや周囲に相談する

① 否定せずに話を聞き、不安心理に共感する

「盗られた!」と興奮して訴えられた際、疑われたショックから「私は盗んでない!」「自分がしまったんでしょ!」と反論したくなりますが、まずはグッと堪えて否定せずに共感してあげることが重要です。

「大切な財布がなくなったら困るよね」「不便で不安だったね」と味方である姿勢を示すことで、本人の強い動揺や興奮を落ち着かせることができます。

② 「一緒に探しましょう」と捜索に協力する

本人が探している動作を止めるのではなく、「大事なものだから、一緒に探してみましょうか」と声をかけて一緒に探すポーズをとります。

探す行動を通じて本人は「この人は味方になってくれている」と認識し、介護者への警戒心や不信感が和らいでいきます。

③ 本人が自分で見つけられるように演出する

介護者がすぐに押し入れや引き出しから現物を見つけて「ここにあったよ!」と出してしまうと、本人は「やっぱりあなたが隠していたんだ」と余計に疑いを強めてしまうことがあります。

介護者が先に隠し場所を発見した場合でも、「あっちのタンスの奥は見てみましたか?」と促したり、本人の目につきやすい場所にそっと移動させ、本人自身の力で見つけさせる(発見者にする)演出が効果的です。見つかったら「よかったね、安心したね」と一緒に喜びましょう。

④ 一人で抱え込まず、外部の専門家を頼る

物盗られ妄想は長期間続くことも多く、介護者一人の精神力だけで耐え続けるのには限界があります。

担当のケアマネジャーや地域包括支援センター、かかりつけ医(物忘れ外来)に現状をありのまま相談してください。デイサービスやショートステイを活用して物理的な距離を置く時間を作る(レスパイトケア)ことが、介護者の精神的健康を守るために必要不可欠です。

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逆効果になる!物盗られ妄想でやってはいけない4つのNG対応

物盗られ妄想に対し、以下のような対応をとってしまうと本人の妄想や興奮がより悪化する恐れがあります。

やってはいけないNG対応なぜNGなのか?(本人の受け止め方)
① 感情的に否定・反論する「泥棒扱いしないで!」「物忘れのせいでしょ!」と怒ると、本人は「責められた」「嘘をつかれている」と感じ、余計に敵対心を強める。
② 「後で探すから」と話を途中で打ち切る「忙しいから後でね」と後回しにされると、見捨てられた不安から興奮状態が長引き、不信感の悪化を招く。
③ 理詰めで注意・説得しようとする正論で追い詰めても認知機能低下により理屈は理解できず、「自分を騙そうとしている」という警戒感だけが残る。
④ 無視・見て見ぬふりをする大切なものを失ったパニック状態を無視されると、混乱が増し、大声を出すなどの行動障害が激化する。

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物盗られ妄想以外の代表的な「認知症の妄想」パターン

認知症では、物盗られ妄想のほかにも心理的負担や不安から様々な妄想が生じることがあります。

1. 見捨てられ妄想(被見棄て妄想)

「自分は家族のお荷物だ」「近いうちに施設に捨てられるのではないか」と思い悩む妄想です。

介護者に世話をかけさせている負い目や申し訳なさから生じる傾向があります。簡単な家事の手伝い(洗濯物をたたむ、食器を拭くなど)をお願いし、「いつも助かっているよ」と感謝を伝えることで、「自分はまだ役に立っている」という自信を取り戻してもらうことが予防につながります。

2. 嫉妬妄想(しっともうそう)

長年連れ添った配偶者やパートナーに対し、「浮気をしている」「他の人と怪しい関係にある」と根拠なく疑い、詰問する妄想です。

自分の衰えに対する強い不安や、配偶者を失うことへの不安心理が根底に隠されています。日頃から「いつも感謝している」「あなたを大切に思っている」という気持ちを言葉や態度で伝えることが大切です。

3. 帰宅妄想

自分の家や自室にいるにもかかわらず、「ここは自分の家じゃない」「家に帰らなきゃ」と荷物をまとめ始める妄想です。見当識障害によって現在の居場所が認識できないことや、昔暮らしていた実家のイメージが強く残っていることが原因となります。

4. 幻覚・見間違い(幻視など)

「そこに知らない子供や人が立っている」「壁に虫や蛇が這っている」など、存在しないものがハッキリと見えて訴える症状です。特にレビー小体型認知症で多く見られます。

否定せずに「怖かったね」と寄り添うとともに、暗い部屋の影や壁にかけた服が見間違いの原因になっている場合があるため、室内を明るく整える環境改善が効果的です。

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薬の副作用で妄想が強くなるケースと医療機関への相談

物盗られ妄想をはじめとする興奮や妄想は、「服薬しているお薬の副作用」によって一時的に増悪している可能性も考慮する必要があります。

抗認知症薬などの副作用に注意

アルツハイマー型認知症の進行抑制のために処方される「アリセプト(一般名:ドネペジル)」などのアセチルコリンエステラーゼ阻害薬は、脳を活性化させる作用を持っています。

しかし、患者の体質や投与量によっては脳の活動が高まりすぎてしまい、副作用として怒りっぽさ、興奮、不眠、激しい妄想(BPSDの激化)が誘発されるケースがあります。

お薬を飲み始めたり、服薬量を増やしたタイミングで急激に妄想や興奮が強くなったと感じる場合は、自己判断で服薬を中断せず、速やかに主治医(処方医)に相談してください。薬の増減や種類変更、あるいは気持ちを鎮める漢方薬(抑肝散など)への調整によって症状が著しく落ち着くことがあります。

まとめ

物盗られ妄想に関する重要ポイントを振り返ります。

  • 原因は記憶障害と心理的焦り:「自分でしまった記憶」が消えることと、大切な資産を失う不安から引き起こされる。
  • 最も身近な介護者が疑われやすい:日常的に頼りにし、自分の領域に入れる存在だからこそターゲットになる。
  • 否定せず「一緒に探す」アプローチ:言い争いは避け、「大変だね」と共感した上で本人が自分で見つけられるようサポートする。
  • NG対応を避ける:感情的な否定・説得・放置・無視は本人の興奮と妄想をさらに悪化させる。
  • 処方薬の影響も疑う:抗認知症薬などの副作用で興奮が強まっている可能性もあるため、主治医へ相談する。
  • 外部機関を頼る:介護者一人で抱え込まず、地域包括支援センターやケアマネジャーに相談してレスパイト(休息)を確保する。

物盗られ妄想は、介護者にとって精神的負担が極めて大きい症状ですが、本人の心理背景を理解し、周囲のサポートを得ながら対応することで波を穏やかにしていくことができます。

専門機関やケアのプロを頼りながら、ご自身の心と体の健康を第一に守っていきましょう。

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メディカル・ケア・サービス株式会社
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