「大切にしていた財布や通帳を『盗まれた』と疑われる」「自宅にいるのに『家に帰りたい』と荷物をまとめ始める」など、認知症に伴う「妄想」の症状に頭を悩ませていませんか?
認知症による妄想は、本人が困らせようとして言っているのではなく、記憶障害や不安感、認知機能の低下から引き起こされる切実なSOSサインです。
接し方を誤ると、本人をさらに追い詰め、妄想が悪化したり暴言・暴力に発展したりすることもあります。
本記事では、認知症の妄想のメカニズムから、代表的な3つの妄想パターン、認知症のタイプ(アルツハイマー型・レビー小体型など)による違い、家族が実践すべき具体的対応策とNG行動、薬物療法の最新知見まで詳しく解説します。

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認知症で起こる「妄想」とは?(BPSDのメカニズム)
認知症の症状は、脳の神経細胞が壊れることで直接起こる「中核症状(記憶障害・見当識障害・理解力低下など)」と、そこへ本人の性格、環境、心理的ストレスが影響して起こる「行動・心理症状(BPSD / 周辺症状)」に分けられます。
「妄想」はBPSDの代表的な症状であり、「事実に反する思い込みを強く信じ込み、周囲が訂正しても納得しない状態」を指します。
なぜ妄想が起きてしまうのか?
- 記憶障害による辻褄(つじつま)合わせ:置いた場所や出来事自体を忘れてしまった際、辻褄を合わせるために脳内でストーリーを作り上げてしまいます。
- 強い不安感や孤独感:「自分がしっかりできなくなっている」という潜在的な不安から、自分を守るために防衛本能として他者を疑う気持ち(被害意識)が働きます。
- 見当識障害(時間や場所の誤認):今いる場所や時間が分からなくなることで、「ここは自分の家ではない」と混乱します。
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認知症の代表的な妄想パターン3選
認知症で見られる妄想には、主に以下の3つの典型的なパターンがあります。
1. 物盗られ(ものとられ)妄想
自分の貴重品(財布、通帳、貴金属、印鑑など)がなくなった際、「誰かに盗まれた」と思い込む症状です。
- 特徴:身近で世話をしてくれている家族や介護スタッフが「犯人」として疑われやすい特徴があります。
- 背景:自分がしまった記憶そのものが抜け落ちているため、「探しても見つからない=誰かが持っていった」という論理に本人の頭の中でなってしまいます。
2. 帰宅(きたく)妄想
自分の自宅にいるにもかかわらず、「家に帰りたい」「自分の家はここではない」と強く訴える症状です。
- 特徴:夕方から夜間にかけて起こりやすく(夕暮れ症候群)、無理に引き留めると外へ飛び出してしまう(徘徊)リスクがあります。
- 背景:見当識障害により現在地が認識できないことや、現在の環境に馴染めず「過去に住んでいた安心できる家」や「かつて自分が役割を果たしていた時代」に戻りたいという心理が働いています。
3. 被害妄想・嫉妬妄想
「周りから悪口を言われている」「食べ物に毒を入れられた」「配偶者が浮気をしている」といった、事実無根の被害を訴える症状です。
- 特徴:本人の自尊心の低下や孤独感、過度な不安が根底にあります。
- 背景:周囲の会話についていけないことへの焦りや、自分が必要とされていないという疎外感から生じます。
認知症の「種類」によって現れやすい症状の違い
認知症の原因疾患によっても、妄想や周辺症状の現れ方に特徴的な違いがあります。

認知症タイプごとの症状比較
| 認知症のタイプ | 主に見られる妄想・症状の特徴 |
|---|---|
| アルツハイマー型認知症 | 「物盗られ妄想」「被害妄想」が多く見られる。記憶障害が目立ち、身近な介護者や家族を攻撃対象にしやすい。 |
| レビー小体型認知症 | 生々しい「幻視(実際にはないものが見える)」や見間違いが特徴。壁のシミが虫に見えたり、誰もいない部屋に人が立っていると訴える。 |
| 脳血管性認知症 | 感情のコントロールが難しくなり(感情失禁)、うつ状態や一時的な興奮に伴う妄想が見られる。 |
| 前頭側頭型認知症(ピック病等) | 妄想よりも、理性や社会規範が失われる「脱抑制」や「反社会的行動」が目立つ。 |
違いを整理!「妄想」「幻覚」「せん妄」の比較表
家族の言動がおかしいとき、それが「妄想」なのか「幻覚」や「せん妄」なのかを見極めることが適切なケアに繋がります。
| 区分 | 状態の定義 | 具体的な症状の例 |
|---|---|---|
| 妄想(もうそう) | 実際には起こっていない不合理な出来事を強く信じ込む状態。 | 「お財布を息子の嫁に盗まれた」「ご飯に毒が入っている」 |
| 幻覚(げんかく) | 実際には存在しないものを、五感(視覚・聴覚等)で実在するように感じること。 | 「部屋の隅に小さな子供が立っている」(幻視) 「外で自分の噂話が聞こえる」(幻聴) |
| せん妄(せんもう) | 身体的不調や服薬などをきっかけに、意識が混乱し興奮する急性の状態。 | 夜間に急に大声を出して暴れる、突然自分がどこにいるか分からなくなる(夜間せん妄)。 |
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認知症の妄想に対する正しい対応法とNG行動
妄想の症状が出た際、周囲(家族や介護者)の反応によって本人の状態は大きく左右されます。
1. 【基本原則】決して否定せず、まず共感する
本人は嘘をついているわけではなく、本人の世界ではそれが「100%の事実」です。
正論で諭したり「そんなわけないでしょ!」と否定したりすると、本人は「この人は味方になってくれない」と感じ、妄想を強化させてしまいます。
2. 妄想パターン別の効果的な声かけ・対応策
【物盗られ妄想への対応】
- NG行動:「私は盗んでない!失礼ね!」と怒る・反論する。
- 正しい対応:「なくなってしまって困りましたね」と不安な気持ちに共感する。「一緒に探しましょうか」と協力し、本人が自分で見つけられるようにそっと誘導する。見つかったら「見つかって良かったですね!」と一緒に喜ぶ。
【帰宅妄想への対応】
- NG行動:「ここがあなたの家でしょ!」と強引に説得する・部屋に閉じ込める。
- 正しい対応:「荷物を確認しましょうか」「もう少しでお夕飯なので、食べてから行きましょう」と話を一度受け止める。お茶を飲んで一息つく、好きな音楽をかけるなどして、注意を別の方向へ逸らす。
【被害妄想への対応】
- NG行動:「妄想ばかり言わないで」とあきれる・無視する。
- 正しい対応:「そんな思いをさせてしまってごめんなさいね」「悲しかったですね」と話を聞く姿勢を見せる。安心感を与えることで、興奮や警戒心が次第に落ち着いていきます。
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認知症の妄想は薬で治療できる?医療・薬物療法の最新アプローチ
妄想へのアプローチは、「接し方の工夫や環境調整(非薬物療法)」が第一選択となります。
しかし、妄想に伴う興奮や激しい暴言・不眠によってご家族の生活が破綻しそうな場合は、医療機関による薬物療法が検討されます。
薬物療法(抗精神病薬や漢方薬)の活用
レビー小体型認知症などの強い幻覚や妄想、激しい興奮に対しては、「非定型抗精神病薬」(リスペリドンやクエチアピンなど)や、漢方薬(抑肝散など)が少量から処方されることがあります。
【注意】薬の副作用と慎重なコントロール
高齢者の場合、抗精神病薬の投与によって以下の副作用が現れることがあります。
- ふらつき・過度の降圧・転倒リスクの上昇
- 過度の鎮静(日中ずっと傾眠状態になる)
- 激しい喉の渇き、便秘、尿閉
症状の改善具合と副作用のバランスを観察しながら、主治医と相談して定期的に処方を見直すことが極めて重要です。
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介護者が一人で抱え込まないために
一番身近で手厚く介護しているご家族ほど、「物盗られ妄想」や「被害妄想」のターゲットにされやすいという残酷な側面があります。
疑われ続けるご家族の精神的ストレスやショックは計り知れません。「自分が我慢しなければ」と抱え込まず、速やかに以下のような専門機関やプロの手を借りましょう。
- 担当のケアマネジャー:デイサービスやショートステイを活用し、物理的に距離を置く時間を作る。
- 地域包括支援センター:介護の悩みや公的サービスの相談窓口。
- かかりつけ医・物忘れ外来(脳神経内科・精神科):症状の評価や薬の調整を行う。
まとめ:寄り添う姿勢と適切なレスパイト(休息)を
認知症による妄想は、脳の病気によって引き起こされる「本人の苦しみのサイン」です。
- 妄想は記憶障害や見当識障害、強い不安感から発生する
- 「物盗られ」「帰宅」「被害」などのパターンがある
- 絶対に否定せず、まずは本人の不安な感情に共感する
- 介護者自身が疲れ切ってしまわないよう、ケアマネジャー等へ早期に相談する
正しい知識と接し方を身につけ、プロの介護サービスを上手に活用しながら、ご家族自身の心と身体の健康を守っていきましょう。

