親の物忘れが増えてきたり、これまでできていた家事や手続きで失敗が目立つようになると、「もしかして認知症では?」と心配になる方も多いのではないでしょうか。
認知症の症状は、脳の神経細胞が壊れることで直接起こる「中核症状」と、中核症状をきっかけに本人を取り巻く環境や心理的ストレスが重なって生じる「周辺症状(BPSD:行動・心理症状)」の2つに大きく分かれます。
中核症状は認知症の根幹をなす症状であり、記憶障害や見当識障害、実行機能障害などが含まれます。症状の仕組みや原因となる病気ごとの特徴を理解しておくことは、早期発見や適切なサポート、介護負担の軽減に深くつながります。
本記事では、認知症の中核症状の定義や具体的な6つの種類、原因となる4大認知症ごとの現れ方の違い、ご家族の関わり方、進行を抑える最新治療法まで分かりやすく解説します。

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認知症の症状とは?「中核症状」と「周辺症状(BPSD)」の違い
認知症とは、さまざまな原因によって脳の神経細胞がダメージを受けたり萎縮したりすることで、認知機能が低下し、日常の生活や社会生活に支障をきたしている状態を指します。
認知症の症状は、大きく「中核症状」と「周辺症状(BPSD)」に整理されます。
- ① 中核症状:脳の神経細胞が破壊されることで直接・全員に生じる中心的な障害(記憶障害、見当識障害など)
- ② 周辺症状(BPSD:行動・心理症状):中核症状を背景に、本人の性格・精神状態・体調・住環境・周囲の対応などが影響して二次的に生じる障害(徘徊、妄想、暴言など)
中核症状と周辺症状の比較
| 比較項目 | 中核症状 | 周辺症状(BPSD) |
|---|---|---|
| 発生の原因 | 脳の神経細胞の変性や死滅による直接的ダメージ | 中核症状に対する本人の不安・混乱・環境・対応の不適合 |
| 症状の現れ方 | 認知症を発症したすべての人に段階的に現れる | 環境や関わり方によって現れる症状や強さが一人ひとり異なる |
| 主な症状例 | 記憶障害、見当識障害、実行機能障害、理解力低下など | 徘徊、物盗られ妄想、暴言・暴力、幻覚、抑うつなど |
| 改善・コントロール | 薬物療法やリハビリで進行を遅らせる | 環境調整や適切なケア、非薬物療法で大幅な軽減が可能 |
中核症状は病気の進行に伴って深まっていきますが、周囲が中核症状の特性を理解して適切なケアを行うことで、本人を追い詰める周辺症状の発症や悪化を防ぐことができます。
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認知症の中核症状:主な6つの種類と具体例
脳の障害を受ける部位や程度によって、あらわれる中核症状にはいくつかの種類があります。代表的な6つの症状を解説します。
- 記憶障害(直前の体験の忘却)
- 見当識障害(時間・場所・人物の認識の曖昧化)
- 理解力・判断力の低下(複雑な事象や危険予測の困難化)
- 実行機能障害(計画的な行動の困難化)
- 言語の障害(失語:言葉が出ない・意味の理解不能)
- 失行・失認の障害(動作不能・対象物の認識不能)
1. 記憶障害
記憶障害は、認知症で最も早く気づかれやすい代表的な中核症状です。
加齢による「単なる物忘れ」との大きな違いは、「体験した出来事そのものを丸ごと忘れてしまう点」と「忘れている自覚(健忘の自覚)がない点」にあります。
- 加齢による物忘れ:「朝食に何を食べたか」メニューの忘却(ヒントがあれば想起可能)
- 認知症の記憶障害:「朝食を食べたこと」自体の忘却と、「まだ食べていない」という主張
また、人間の記憶には数分〜数日間の出来事を留める「短期記憶」と、過去の思い出や体験を記憶する「長期記憶」がありますが、認知症(特にアルツハイマー型)では短期記憶から優先的に失われ、昔の古い記憶は比較的長く保たれる特徴があります。
2. 見当識障害(けんとうしきしょうがい)
見当識とは、自分が置かれている「時間」「場所」「人間関係」などの状況を正確に把握する機能です。見当識障害が進むと、これらを認識できなくなります。
通常、障害は「時間」→「場所」→「人物」の順番で段階的に進行していきます。
- 時間の見当識障害:日付や時間の認識不能(真夜中の出勤準備や季節外れの服装など)
- 場所の見当識障害:現在地の認識不能(自宅での迷子や近所での徘徊など)
- 人物の見当識障害:対人関係の認識不能(配偶者を他人と思い込む、子供を親と勘違いするなど)
3. 理解力・判断力の低下
情報を正しく処理し、物事の良し悪しや優先順位、危険性を判断する能力が低下します。
- 抽象的な概念(時間、契約、お金の計算など)の理解困難
- お釣りの計算の忌避(毎回1,000円札や硬貨の山での支払い)
- 交通の危険予測の欠如(信号の見落としや道路への飛び出しなど)
- 悪質な訪問販売や特殊詐欺への被害リスク増大
4. 実行機能障害(遂行機能障害)
物事を効率よく行うために、計画を立て、手順を追って準備や実行をこなしていく能力(実行機能)が損なわれます。
これまで当たり前にこなしていた家事や仕事で顕著にあらわれます。
- 料理の段取りの困難化(マルチタスクの不能による同じ食材の購入や鍋の焦げ付きなど)
- 家電や機械の操作不能(リモコンや電子レンジなどの設定方法の忘却と使用の中止)
5. 言語の障害(失語)
言葉のやり取りを司る脳の領域が障害を受け、話すことや理解することが困難になります。失語にはいくつかのパターンが存在します。
- 健忘性失語(けんぼうせいしつご):「あれ」「それ」の増加と単語の想起困難
- 運動性失語:意味の理解は可能だが、スムーズな発語が困難な状態
- 感覚性失語・超皮質性感覚性失語:言葉の意味の理解不能による会話困難やオウム返し(反響言語)
6. 失行(しっこう)・失認(しつにん)の障害
目や手足などの身体機能には麻痺や異常がないにもかかわらず、目的に合わせた動作や対象物の認識ができなくなる状態です。
- 失行(身体動作の障害):着衣の手順の忘却(着衣失行)や道具(箸・はさみ・鍵)の操作不能
- 失認(認識の障害):視覚情報の理解不能(視覚失認)や顔の識別不能(相貌失認)
4大認知症における中核症状Causeと特徴の違い
認知症は、脳に障害を引き起こす「原因病気」によっていくつかの種類に分類されます。病気の種類によって、最初に現れやすい中核症状や進行のパターンが異なります。
- アルツハイマー型認知症(全体の約6割/記憶・見当識障害から始まる)
- 脳血管性認知症(全体の約2割/脳卒中が原因/まだら認知症・実行機能障害)
- レビー小体型認知症(全体の約1割/幻視・認知機能の変動・パーキンソン症状)
- 前頭側頭型認知症(FTD)(若年層にも/人格変化・脱抑制・行動異常)
1. アルツハイマー型認知症
認知症の中で最も患者数が多く、全体の約6割を占めます。
原因:脳内に「アミロイドβ」と「タウ」という特殊なたんぱく質が長年かけて異常蓄積し、神経細胞が破壊されて脳全体(特に記憶を司る海馬周辺)が萎縮すること。
中核症状の特徴:初期から「記憶障害(新しい出来事の忘れ)」と「時間の見当識障害」が明確にあらわれます。初期は比較的しっかり会話ができますが、徐々に場所や人物の見当識障害、実行機能障害へと進行していきます。
2. 脳血管性認知症(脳血管障害型)
脳梗塞や脳出血、微小な脳血管の閉塞といった脳卒中が原因で生じる認知症です。
原因:脳の血管が詰まったり破れたりすることで、その先の脳組織に酸素や栄養が行き届かず、神経細胞が局所的に死滅すること。高血圧や糖尿病などの生活習慣病が背景にあります。
中核症状の特徴:ダメージを受けた脳の部位によって症状が異なるため、「できることとできないことがはっきり分かれる(まだら認知症)」のが特徴です。記憶障害が軽度であっても、実行機能障害(手際の悪さ)や言語障害(運動性失語)、歩行障害、感情失禁(泣きやすくなる等)が初期から目立つことがあります。
3. レビー小体型認知症
アルツハイマー型、脳血管性に並ぶ3大認知症の一つです。
原因:脳の幹部や大脳皮質に「レビー小体」と呼ばれる異常なたんぱく質の塊が集積し、神経細胞が減少すること。
中核症状の特徴:発症初期は記憶障害が目立たないケースもあります。「頭がすっきりしている時と混乱している時の波が大きい(調子の変動)」「視空間認知の障害(距離感や立体感の欠如)」が主な特徴です。中核症状に付随して、非常にリアルな「幻視(見えないものが見える)」や、手足の震え・歩行の小刻み(パーキンソン症状)が高頻度で現れます。
4. 前頭側頭型認知症(ピック病など)
理性や社会性、言語を司る脳の前頭葉や側頭葉が局所的に萎縮する認知症です。
原因:前頭葉や側頭葉の神経細胞に異常タンパク質が蓄積し、細胞が萎縮すること。
中核症状の特徴:記憶障害よりも先に、「社会的ルールの欠如」「感情の歯止めが利かない(脱抑制)」「万引きや不潔行為」「同じ言葉や行動を繰り返す(常同行動)」といった行動・人格の変化が顕著にあらわれます。言葉の意味が分からなくなる「意味性失語」を伴うことも特徴です。
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中核症状が疑われたときのご家族の関わり方
身近なご家族が中核症状を起こした際、介護する側は困惑や不安、時には強いストレスを感じやすくなります。しかし、対応の仕方を誤ると、本人が強い恐怖を感じて周辺症状(BPSD)を著しく悪化させてしまいます。
ご家族が意識すべき重要なポイントです。
- 本人の症状(悪気のない忘却)への理解
- 忘却や失敗に対する否定・叱責・非難の回避
- 本人の不安な感情への寄り添いと安心感の提供
- 自力でできること(残存機能)の維持・活用
1. 「病気の影響」であることを理解する
忘れ物をしたり、同じ質問を何度も繰り返すのは、本人の怠慢や我が儘ではなく、脳の神経細胞が壊れてしまっている病気の症状(中核症状)です。
本人も「なぜ思い出せないのか」「なぜ上手くできないのか」と一番強い不安と戸惑いを感じています。
2. 否定せず、怒らない・責めない
「さっきも言ったでしょ!」「どうしてこんなことも分からないの!」と大声で叱ったり責めたりしても、脳の仕組み上、記憶は改善しません。
むしろ「怒られた」「自分はダメな人間だ」という不快な強い感情だけが記憶の底に残り、うつ状態、自尊心の欠如、物盗られ妄想、暴言・暴力などの深刻な周辺症状(BPSD)を引き起こす直接の原因となります。
3. 本人の安心感を第一に考える
記憶は消えても「感情」はしっかりと残ります。
「いつも味方でいる」「ここにいて大丈夫」という安心感を与えることが何よりの薬となります。間違いがあった場合はさりげなくフォローし、失敗を責めずに穏やかに話を聴く姿勢を意識しましょう。
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認知症の中核症状に対する治療法
現在の医療では、一度失われた脳の神経細胞を完全に元通りへ戻す治療法は存在しません。しかし、「病気の進行を遅らせる」「症状を和らげて穏やかな生活期間を長く保つ」ための治療技術は着実に進歩しています。
治療アプローチは「薬物療法」と「非薬物療法」の2つに分かれます。
1. 薬物療法
薬物療法には、従来の「症状の進行を一時的に緩和するお薬(対症療法薬)」に加え、近年の医療進歩により原因物質を除去して病気そのものの進行を抑える新薬(疾患修飾薬)が登場しています。
① 疾患修飾薬(進行抑制を目指す最新治療薬)
アルツハイマー病の原因物質である「アミロイドβ」に直接働きかけ、脳内から取り除く抗体製剤です。
主な薬剤:レカネマブ、ドナネマブなど
特徴:軽度認知障害(MCI)やアルツハイマー病による軽度認知症の段階で早期投与を始めることで、脳の萎縮と症状の進行速度を長期間にわたり抑制することが期待されています。
② 症状進行抑制薬(認知機能低下を緩和するお薬)
脳内の神経伝達物質(アセチルコリン等)の分解を防ぎ、残された神経の働きを強めるお薬です。
- アセチルコリンエステラーゼ阻害薬(軽度〜中等度のアルツハイマー型やレビー小体型への処方)
- NMDA受容体拮抗薬(過剰なグルタミン酸による神経細胞死の防止、中等度〜高度のアルツハイマー型への処方)
2. 非薬物療法(リハビリテーション)
お薬を使わずに脳に良い刺激を与え、残留している機能を活性化させるリハビリテーション療法です。
- 回想法(過去の楽しい記憶の語り合いを通じた心の安定と脳の活性化)
- 音楽療法(歌や楽器演奏を通じた情緒の安定と記憶領域の刺激)
- 認知刺激療法・作業療法(手芸や料理などを通じた五感の刺激と日常生活動作の維持)
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気になる初期症状が見られたら?早期受診の目安と相談窓口
認知症の中核症状を早期に発見し、進行抑制薬や疾患修飾薬(最新の抗アミロイドβ抗体薬など)を適切なタイミングで投与し始めるためには、早期受診が極めて重要となります。
- 病気(治療可能な脳疾患など)の原因の早期特定
- アルツハイマー病の最新治療薬の適応時期(MCI〜軽度段階)の確保
- 家族による今後の生活準備、介護サービスの手配、財産管理などの計画的な進行
何科を受診すべきか?
本人やご家族に違和感がある場合は、以下の専門医療機関を受診しましょう。
- 物忘れ外来(認知症専門の特設外来)
- 脳神経内科・神経内科
- 精神科・心療内科
- 高齢者専門病院(精神科病院・認知症疾患医療センターなど)
「本人が病院行きを嫌がる」「何科に行けば良いか分からない」といった場合は、地域のよろず相談窓口である「地域包括支援センター」へまず相談することをおすすめします。保健師、社会福祉士、ケアマネジャーなどの専門職が無料で相談に乗り、受診の手配や利用できる介護保険サービスについて助言してくれます。
まとめ
今回の重要ポイントを振り返ります。
- 中核症状の定義(脳の神経細胞の破壊により直接・全員に現れる記憶障害などの症状)
- 4大疾患による初期の中核症状や進行パターンの違い
- 本人に悪気がないことの理解と、「否定しない・怒らない・感情に寄り添う」関わり方の徹底
- 疾患修飾薬、症状改善薬、リハビリテーションによる進行の抑制
- 違和感に気づいた際の「物忘れ外来」や「地域包括支援センター」への早期相談
認知症の中核症状を正しく理解し、焦らず本人の気持ちに寄り添った対応を心がけることが、ご本人とご家族の穏やかな生活を守る第一歩となります。

