- 最近、親が今日の日付を何度も聞いてくること
- いつも通っているはずのスーパーからの帰り道で迷ってしまったこと
- 一瞬、自分のことを「お母さん」と呼び間違えたこと
40代・50代を迎え、親の年齢が高くなってくると、このような「小さな異変」に気づく瞬間が増えてきます。「単なる物忘れかな?」と見過ごしてしまいがちですが、これらは認知症の代表的な初期サインである「見当識障害(けんとうしきしょうがい)」の可能性があります。
見当識障害は、進行すると本人の日常生活に大きな支障をきたすだけでなく、命に直結する深刻なトラブルを引き起こすこともあります。
本記事では、健康や介護への関心が高い中高年の方に向けて、見当識障害の基礎知識から、それが原因で起こる3大トラブル、家族が実践すべき正しい対処法や予防策までを分かりやすく解説します。
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「見当識障害」とは何か?認知症の中核症状を理解する

見当識(けんとうしき)は脳のナビゲーションシステム
見当識とは、「いま自分が置かれている状況」を正しく認識するための脳 of 機能です。私たちは、この機能があるおかげで、意識しなくても以下の3つの要素を瞬時に理解できています。
- 時間(今が何時で何月何日か、どの季節かという時間感覚)
- 場所(ここはどこで、自宅や目的地はどちら方向かという空間認識)
- 人(目の前にいるのは誰で、自分とどういう関係かという人間関係)
このナビゲーションシステムが、脳の細胞の破壊や萎縮(主にアルツハイマー型認知症など)によって正常に働かなくなってしまう状態を「見当識障害」と呼びます。
認知症の「中核症状」としての特徴
認知症の症状には、脳の障害によって直接起こる「中核症状」と、本人の不安や周囲の関わり方、環境などによって二次的に現れる「行動・心理症状(BPSD)」があります。
見当識障害は「中核症状」に分類され、認知症を発症した場合には避けて通れない、必ず現れる症状とされています。一般的には、「時間の感覚」➤「場所の感覚」➤「人の認識」の順番でゆっくりと進行していくのが特徴です。
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見当識障害が原因で起こる「3大ライフトラブル」
見当識が失われると、本人は大きな不安や恐怖に包まれます。そして、その混乱した頭で行う行動は、時に以下のような重大なトラブルに発展します。
徘徊(はいかい)による事故・行方不明
見当識障害によるトラブルの中で、最も家族の負担やリスクが大きいのが「徘徊」です。
行方不明になるメカニズム
「場所の見当識」が低下すると、自分が今どこにいるのか、自宅への帰り道はどちらなのかが分からなくなります。例えば、「いつものスーパーに買い物に行く」という明確な目的を持って外出したとしても、途中で道が分からなくなり、全く違う方向へひたすら歩き続けて遠方で迷子になってしまうケースが多発します。自力での帰宅は困難なため、結果的に行方不明に直結します。
事故やケガのリスク
外を歩き回る時間が長引くほど、転倒して骨折したり、交通事故に遭ったりするリスクが跳ね上がります。特に、夜間の暗い時間帯や、交通量の多い道路での徘徊は極めて危険です。
家族にかかる精神的・肉体ストレス
家族は「いつ外に出て行ってしまうか分からない」という不安から、一瞬も目が離せなくなります。深夜の捜索や、警察への保護依頼、他人の敷地への誤侵入に対する謝罪などが重なると、家族は心身ともに疲れ果ててしまいます。
季節外れの服装や水分補給忘れによる「脱水症状」
中高年・高齢者はもともとのどの渇きを感じにくい傾向がありますが、見当識障害が加わることで脱水症状や熱中症のリスクがさらに高まります。
服装調節ができなくなる
「時間の見当識」が低下して季節感がなくなると、真夏に冬用のセーターやコートを着込んだり、真冬に薄着で外出しようとしたりします。これによって急激な発汗や、逆に体温低下を引き起こし、脱水を誘発します。
自主的な水分補給が難しくなる
のどが渇いたと感じた時にはすでに脱水が始まっていることが多いにもかかわらず、理解力が低下しているため、「水分を摂る」という適切な行動を自分で判断して起こすことが困難になります。
長時間徘徊による脱水
屋外を水分も摂らずに長時間歩き回れば、短時間で重篤な脱水症状に陥ります。初期は口の渇きやだるさですが、悪化すると意識障害や腎機能の低下、最悪の場合は命に関わります。
トイレの失敗による「失禁」
排泄トラブルは本人の自尊心(プライド)に深く関わるため、細心の注意を払う必要があります。
トイレの場所を忘れる
「場所の見当識」が低下すると、自室からトイレまでの道順が分からなくなって迷ってしまいます。探しているうちに我慢できなくなり、トイレにたどり着く前に失禁してしまうケースです。
トイレそのものの認識ができなくなる
トイレの個室にたどり着いても、目の前にある便器を「排泄をする場所」と認識できず、ゴミ箱やクローゼットなど、別の場所で排泄してしまうこともあります。
【種類別】見当識障害の具体的な症状パターン
見当識障害の進行段階と、日常で現れる具体的な行動パターンをさらに詳しく見ていきましょう。
【見当識障害の進行イメージ】
時間の感覚(初期) ──> 場所の感覚(中期) ──> 人の認識(進行期)
時間の見当識障害(初期段階)
日常の「度忘れ」との違い
健常な人でも「今日、何曜日だっけ?」と度忘れすることはありますが、カレンダーや手帳を見ればすぐに納得できます。しかし、見当識障害の場合、「いまが何年何月何日か」「何曜日か」「今の季節は何か」といったヒントをもらっても、それを正しく理解して記憶に留めることができません。
進行したときのサイン
症状が進むと、季節に合わせた暮らしができなくなるだけでなく、自分の誕生日や、自分が今何歳なのかといった基本的な時間の記憶も分からなくなっていきます。
場所の見当識障害(中期段階)
おなじみの場所で迷う
長年住み慣れた自宅の周辺や、毎日のように通っていた病院、スーパーへの道順が突然分からなくなります。
自分が今いる場所を誤認する
「現在地」を正しく認識できないため、病院の待合室にいるのに「ここは自分の家だから早く寝る準備をしなくては」と焦ったり、自宅にいるのに「他人の家に閉じ込められているから、早く自分の家に帰りたい」と言って外へ出ようとしたりします。
人の見当識障害(進行期段階)
顔と名前、関係性が一致しない
毎日顔を合わせている配偶者や子供、孫などの顔を見ても、誰であるのかが一致しなくなります。
役割のすり替わり
配偶者を自分の「親」や「子供」と見間違えたり、息子や娘を「知らない他人(泥棒や訪問販売員など)」だと思い込んで激しく警戒したりします。まったく見覚えがないというよりは、「知っている顔なのは分かるけれど、自分とどういう関係の人なのかが分からない」というもどかしさや不安が背景にあります。
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家族が知っておくべき正しい対処法と基本の関わり方
見当識障害がある本人に、家族や介護者はどのように向き合うべきでしょうか。何よりも大切なのは、「本人が安心して過ごせる環境を整えること」です。

「間違い」を否定しない・怒らない
本人が「今は朝の3時だから、仕事に行く」と言い出したり、配偶者を別の名前で呼んだりしたとき、「何言ってるの!今は夜中よ!」「私はあなたの妻でしょ!」と強く否定したり、叱ったりすることは避けてください。
自分の認識している世界(脳が見せている現実)を頭ごなしに否定されると、本人は「誰も自分を信じてくれない」という深い孤独感や恐怖を抱き、不穏状態や暴力、うつ傾向などの2次トラブルを悪化させます。
「お仕事に行く準備をしようとしたんだね」と、まずは本人の思いに一度寄り添い、優しく付き添いながら安心感を与える言葉をかけましょう。
行動を過度に制限しない
徘徊や迷子が怖いからといって、玄関の鍵をいくつも閉めて外に出るのを一切禁止したり、部屋に閉じ込めたりすることは逆効果です。
行動を制限されると、本人のストレスが溜まるだけでなく、日々の脳への健康的な刺激(風景、光、運動など)がシャットアウトされてしまい、かえって認知症の症状の進行を早めてしまいます。
本人のペースに合わせつつ、安全を十分に確保した上で、さりげなく見守りながら行動をサポートしましょう。
服装と水分補給の先回り管理
本人は「暑い」「のどが渇いた」といった体調の異変を自分自身で正しく自覚・対処できないため、家族が先回りして管理してあげることが大切です。
- 服装の工夫(季節に合った衣服だけを手に取りやすい引き出しに用意し、季節外れの服は目に入らない別の場所に片付ける対策)
- 水分補給のルール化(本人の訴えを待たず、起床時、おやつの時間、入浴後などの決まった時間に家族からお茶を手渡す習慣)
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トラブルを未然に防ぐための2つのアプローチ
見当識障害による重大なトラブル(行方不明、事故、脱水症状、排泄の失敗)を防ぐために、家庭で今日から取り入れられる予防策をご紹介します。
対策A:カレンダーや時計を工夫し「今」を脳に印象づける
「時間の見当識」をサポートするために、目に見える環境をアップデートしましょう。
大きくてシンプルなものを目立つ場所に
デジタル表示の液晶時計よりも、針 of 動きで時間の経過が分かりやすい、文字盤の大きなアナログ時計がおすすめです。カレンダーも、文字が大きく、余計なイラストのないシンプルなものを、リビングやトイレなど本人の視線が届く場所に貼りましょう。
毎日一緒に印をつけるルーティン
「今日は何日かな?」と、毎朝一緒に日めくりカレンダーをめくったり、月間カレンダーに大きな赤ペンで「済」や「〇」などの印をつけたりする作業を習慣にします。何度も時間や日付を反復することで、脳に「今」を認識させやすくなります。
時間や季節を意識させる声掛け
家族からの声掛けも立派な対策です。「もうお昼の12時だから、お昼ごはんにしましょう」「そろそろ夕方5時を過ぎて、外も暗くなってきたね」というように、具体的な時間や外の様子を会話の中にそっと散りばめると、本人の時間の感覚を補いやすくなります。
対策B:効果的な「散歩」を取り入れ、五感を刺激する
おそれて家に閉じこもるよりも、家族と一緒に適度な散歩に出かけるほうが、見当識障害の改善やトラブル防止に多くのメリットをもたらします。
散歩がもたらす素晴らしい効果
- 五感の刺激(外の空気、風の温湿度、植物の色彩変化などによる季節感覚の直接的な脳への刺激)
- 睡眠リズムの改善(日中の日光浴や適度な運動による睡眠リズムの調整、および夜間徘徊の予防)
迷子に備える安心の事前準備
- GPS機器の活用(靴のインソール下やカバンの底への小型GPS端末の格納)
- 衣服への連絡先記載(衣服のタグ部分への氏名および連絡先記入シールの貼付)
- 地域のサポート登録(自治体や警察の高齢者見守りネットワークへの事前登録)
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まとめ:見当識障害が原因で起こる問題と対策
ここまで、認知症の中核症状である「見当識障害」の現れ方と、その対処法についてご紹介しました。
- 起こりやすい重大なトラブル(帰り道が不明になる徘徊、脱水症状、排泄失敗による失禁など)
- 進行のステップ(時間の感覚から場所の感覚、および人の認識へとゆっくり進行する傾向)
- 家族の正しい関わり方(本人の否定の回避、環境調節、散歩による刺激、GPS活用による備え)
親にいつもと違う様子が見られたら、一人で抱え込まず、早い段階でケアマネジャーや「地域包括支援センター」、かかりつけ医などの専門家に相談しましょう。適切な知識と事前の備えが、ご家族みんなが穏やかに笑顔で暮らすための「お守り」になります。
- 厚生労働省「BPSD:認知症の行動・心理症状」
- 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)」

