「転べた」という大切な経験

大堀 具視
大堀 具視作業療法士 / 株式会社Start movement代表

先日、とても素敵な言葉に出会いました。

日常のケアを通じて歩く機会が増えたTさんのこと。

歩く機会が増えるということは、同時に転倒などのリスクは高くなります。

もちろん、なるべく転倒などの事故が起こらないよう見守りをしていたそうなのですが、残念ながら予想に違わず転倒してしまったというエピソードを職員から聞かされました。

でも、その時の表現が絶妙です。

それは「Tさん転べたんです」というものでした。

その場の雰囲気が和らいだのがとても印象的でした。

 

転倒は避けるべきものでしょう、しかし立つ、歩くというチャレンジ無しには転倒も無いわけです。

歩き始めの子どもが尻もちをつく、それは心配をしつつも微笑ましく見守られます。そして、その一度の転倒は歩く能力を飛躍的に高めてくれます。

一方、身長も体重も子どもの比ではない高齢者の転倒は、もちろん大きな怪我につながるリスクも高まりますから、子どもの転倒のように微笑ましく受け止められるものではないのかもしれません。

ですが、チャレンジは子どもも大人も等しく賞賛されるべきものですし、1回の転倒は大切な経験になるのもまた確かなはずです。

 

チャレンジを後押しするものになるか、否定し制限するものになるか、転倒に対する受け止め方によって大きく変わってくるものと思います。

特に施設のように家族以外の方のケアをする場所では、転倒をおおらかに受け止めるのは難しいのも事実です。

だからこそ、起こったことの深刻さはグッとこらえて、表現だけでも「転べたんです」と前向きに解釈するのは、転倒した本人のショックを和らげるだけではなく、関わった職員に対しても必要以上に萎縮した関わりにならないための大きな効果があると思います。

 

一つのエピソードはネガティブにもポジティブにも捉えることができます。

ネガティブな捉え方はどうしても対策をするなどルールを増やすことにつながりやすいです。

ルールは増えれば増えるほど、職員は業務に縛られ逆に事故を起こしやすくする負の側面も否定できません。

起こってしまったことを帳消しにはできませんから、それを可能な限りポジティブに捉えてみるほうが良い場合もありそうです。

本人のチャレンジを後押しするケアでありたいものです。

 

転んでしまったようです:「暗い雰囲気」/転べたんです:「前向きな明るい雰囲気」

 

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筆者プロフィール

やさしい在宅介護
作業療法士 / 株式会社Start movement代表
やさしい在宅介護
北海道出身。株式会社Start movement代表、作業療法士。著書に「お互いが歩み寄る介護実践45のヒント」「利用者の"動き出し"を引き出すコミュニケーション」などがある。
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大堀 具視
大堀 具視
作業療法士 / 株式会社Start movement代表
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