「最近、料理の味が薄く感じる」「好物だったものが美味しくない」……高齢になると、このような味覚の変化を訴える方が増えてきます。
味覚が衰えると、食べる楽しみが失われて食欲が低下し、低栄養やサルコペニア(筋力低下)などの深刻な健康リスクを招く可能性があります。
本記事では、高齢者の味覚が低下する原因をはじめ、味覚を改善するための対策、そして食事をおいしく食べてもらうための具体的な工夫についてわかりやすく解説します。
ご家族の食事ケアに悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
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味覚を感じる仕組みと加齢による変化
私たちが食べ物を「おいしい」と感じるのには、舌の表面にある「味蕾(みらい)」という小さな器官が深く関わっています。

味蕾(みらい)の働き
舌の表面や口の中の粘膜には、約5,000個の「味蕾」が存在します。食べ物に含まれる味の物質が唾液に溶けて味蕾に触れると、その情報が神経を通って脳に伝わり、「甘味・酸味・塩味・苦味・うま味」の5つの基本味として認識されます。(※辛味は味覚ではなく「痛覚・温覚」で感じます)
味蕾の細胞はダメージを受けやすいため、約10日の短いサイクルで新しい細胞へと生まれ変わっています。
高齢者が衰えやすい能力
人は年齢を重ねると、筋肉や骨、視力、聴力などさまざまな機能が低下します。味覚も例外ではありません。
加齢によって味蕾の数が減ったり、味を感知する能力が落ちたりすることで、本来の味とは違って感じたり、味がわかりにくくなったりする「味覚障害」が起こりやすくなります。
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高齢者の味覚が低下する6つの原因と対策
高齢者の味覚障害は、単なる加齢だけでなく、さまざまな要因が複雑に絡み合って起こります。主な6つの原因とその対策を解説します。
1. 味蕾(みらい)の減少
味蕾の数は、20歳頃をピークに徐々に減少し、60歳以上で約6割、74歳以上では約3割にまで減ってしまうと言われています。味蕾が減れば、当然味を感じ取るセンサーの機能が低下します。
【対策】 味蕾の生まれ変わりを助ける「亜鉛」を積極的に摂取しましょう。(亜鉛については後述します)
2. 亜鉛の欠乏
亜鉛は、味蕾細胞の再生(新陳代謝)に欠かせない必須ミネラルです。高齢者は食事量が減ることで亜鉛が不足しやすく、味覚障害の大きな原因となります。
【対策】 牡蠣、煮干し、赤身肉、カシューナッツ、大豆製品など、亜鉛を多く含む食材を食事に取り入れましょう。必要に応じてサプリメントや、医師から処方される亜鉛剤を活用するのも有効です。
3. 口腔内の汚れ・唾液の減少(ドライマウス)
味物質は唾液に溶けて初めて味蕾に届きます。加齢で唾液の分泌量が減ると、口の中が乾燥し、味がわかりにくくなります。また、舌の表面に汚れ(舌苔:ぜったい)が溜まると、味蕾にフタをしてしまいます。
【対策】 こまめなうがいや歯磨き、専用の舌ブラシで舌苔を優しく取り除き、口の中を清潔に保ちましょう。あごの下や耳の付け根を優しくマッサージする「唾液腺マッサージ」も効果的です。
4. 薬の副作用
高齢者は高血圧の薬や鎮痛剤など、複数の薬を服用していることが多いですが、一部の薬には体内の亜鉛を排出してしまったり、唾液の分泌を抑えたりする副作用があります。
【対策】 服薬を始めてから味覚がおかしいと感じた場合は、自己判断で薬をやめず、かかりつけ医や薬剤師に相談して薬の調整を検討してもらいましょう。
5. 嗅覚(におい)の低下
「風味」という言葉があるように、味覚はにおい(嗅覚)と密接に結びついています。加齢や鼻炎などで嗅覚が低下すると、食べ物の味がわかりにくくなります。
【対策】 鼻づまりなどの症状がある場合は、耳鼻咽喉科で適切な治療を受けましょう。
6. 心理的要因(ストレス・うつ)
強いストレスや不安、高齢期に多いうつ傾向(仮面うつ病など)も、自律神経の乱れを引き起こし、味覚障害の原因となることがあります。
【対策】 ストレスは体内の亜鉛を余計に消費してしまいます。心療内科等での治療や、家族とのコミュニケーションを通じて心理的負担を軽減することが大切です。
味覚障害が高齢者にもたらす危険なリスク
「味がわからないだけ」と放置するのは危険です。味がしないと食べる楽しみがなくなり、食欲が極端に低下します。その結果、以下のような深刻な状態を招く恐れがあります。
- 低栄養: エネルギーやタンパク質が不足し、風邪などの感染症への罹患リスクの上昇
- サルコペニア・ロコモティブシンドローム: 筋肉量や骨量が減少し、歩行困難や転倒・骨折リスクの増加
結果的に要介護状態や寝たきりにつながるため、味覚の低下には早めの対策が必要です。(※令和元年の調査では、65歳以上の男性の約12%、女性の約20%が低栄養傾向にあるとされています。)
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味覚タイプ別!食事をおいしくする工夫
味覚障害にはいくつかのパターンがあります。ご本人がどのように感じているかを把握し、それに合わせた調理の工夫を行いましょう。
① 「味が薄い・感じない」場合
工夫: 塩分をただ増やすのではなく、「だし(うま味)」をしっかり効かせたり、ゆずやレモンなどの「酸味」、カレー粉や生姜などの「香辛料」で味にメリハリをつけましょう。
工夫: あんかけにして「とろみ」をつけると、調味料が舌に長くとどまり、味を感じやすくなります。
② 「本来の味と違う・変な味がする(異味症)」場合
工夫: 「塩味を苦く感じる」といった場合は、苦味を抑えるために甘味や酸味を少し強めに味付けします。肉や魚は、臭み取り(霜降りや下茹で)を念入りに行いましょう。
③ 「特定の味が強すぎる」場合
工夫: 「甘すぎる」「しょっぱすぎる」と感じる調味料を控え、だしのうま味を中心に薄味に仕上げます。
④ 「食感が違う(砂や紙を食べているようだ)」場合
工夫: 口の中が乾燥している(ドライマウス)可能性が高いため、食事の前に水やお茶、汁物で口を潤しましょう。食材は細かく刻み、とろみをつけて飲み込みやすくします。うま味成分には唾液の分泌を促す効果があるため、昆布やかつお節のだしを積極的に使いましょう。
⑤ 金属の味がする場合
工夫: 金属製のスプーンやフォークが原因で苦味や鉄の味を感じることがあります。木製やプラスチック製、陶器の食器・カトラリーに変更してみましょう。
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高齢者の味覚まとめ
本記事では、高齢者の味覚の衰えについて解説しました。要点は以下の通りです。
- 高齢者の味覚低下は、味蕾の減少、亜鉛不足、唾液の減少、薬の副作用などによる複雑な発生
- 味覚の衰えによる食欲不振からの、低栄養や寝たきり(要介護)につながる危険性の存在
- 対策としての、亜鉛の摂取、唾液腺マッサージ、こまめな口腔ケアの有効性
- だし(うま味)や酸味、香辛料、とろみを活用した、少ない塩分でも味を感じやすくする工夫の重要性
「おいしい」と感じる食事は、生きる活力に直結します。ご家族の味覚の変化に早めに気づき、日々の食事をサポートしていきましょう。


