糖尿病の治療中や健康診断で「乳酸アシドーシス」という言葉を聞き、不安を感じていませんか?
乳酸アシドーシスは、体内に乳酸が過剰に蓄積して血液が酸性に傾く病態で、発症した際の致死率が約50%に達する極めて重篤な状態です。特に、2型糖尿病の治療で最も広く処方されている「ビグアナイド薬(メトホルミンなど)」を服用している方に起こりやすい副作用として知られています。
「自分もメトホルミンを飲んでいるけれど大丈夫か」「どんな初期症状に気をつければよいのか」と心配な方も多いでしょう。
本記事では、40代以上の方が知っておくべき乳酸アシドーシスの基礎知識から、糖尿病治療薬で発症する仕組み、初期症状と重症化リスク、糖尿病以外でリスクが高い方の特徴(腎障害・脱水・飲酒等)、最新の治療研究、防ぐための注意点まで詳しく解説します。
- 乳酸アシドーシスとは:体内への過剰な乳酸蓄積に伴う血液pH(水素イオン濃度)の正常域(7.4±0.05)未満低下および酸性化現象
- 糖尿病(2型)との関係:治療薬ビグアナイド薬(メトホルミン)の肝臓糖新生抑制に伴う原料乳酸の未消費・体内蓄積
- 発生頻度と致死率:年間発現率10万人あたり約6人の稀少性と発症時致死率約50%の危険性
- 初期症状:腹痛・吐き気・下痢等の胃腸障害、筋肉痛、激しい倦怠感
- ハイリスク群:腎機能低下(透析含む)、肝機能障害、心不全・呼吸不全、過度な飲酒習慣、脱水症(シックデイ時等)保持者

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乳酸アシドーシスとは?血液が酸性に傾く仕組み
通常、私たちの血液はpH(水素イオン濃度)が7.4±0.05の弱アルカリ性に厳密に保たれています。
何らかの原因で体内に酸性物質が増えたり、塩基(アルカリ)が減ったりして血液が酸性に傾いた状態を「アシドーシス」と呼びます。
体内での乳酸の過剰産生 + 肝臓・腎臓での乳酸代謝・排出低下
↓
血液中に「乳酸」が過剰蓄積
↓
血液のpHが7.35未満へ低下(代謝性アシドーシス)
↓
全身の臓器障害・ショック症状(致死率約50%)
アシドーシスには「呼吸性」と「代謝性」の2種類があり、乳酸の蓄積によるものは「代謝性アシドーシス」に分類されます。
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乳酸アシドーシスと糖尿病の関係性|なぜメトホルミンで起こるのか?
乳酸アシドーシスは、特に2型糖尿病の患者さんに起こりやすいことが指摘されています。
その最大の理由は、2型糖尿病の標準治療薬として世界中で広く使用されている「ビグアナイド薬(代表的な成分名:メトホルミン)」の副作用によるものです。
ビグアナイド薬が乳酸を溜め込む仕組み
ビグアナイド薬は、血糖値を下げる優れたお薬ですが、その主な作用メカニズムの一つに「肝臓での糖新生の抑制」があります。
【通常の乳酸代謝】
体内で発生した乳酸 ──(肝臓の「糖新生」)──> グルコース(ブドウ糖)に変換・消費される
【ビグアナイド薬(メトホルミン)服用時】
ビグアナイド薬が「糖新生」をブロック
↓
乳酸がグルコースへ変換されず、肝臓で消費されなくなる
↓
血液中に消費されなかった乳酸が溢れ、過剰に蓄積する
このように、お薬の作用によって肝臓での乳酸消費がストップしてしまうため、体内へ乳酸が蓄積しやすくなり、乳酸アシドーシスを引き起こすリスクが生じるのです。
見逃し厳禁!乳酸アシドーシスの初期症状と進行症状
乳酸アシドーシスは、早期に気づいて適切な治療を行わなければ急速に重症化します。
初期症状は一般的な風邪や胃腸炎と似ているため見過ごされやすいですが、メトホルミン服用中に以下の症状が現れた場合はすぐに処方医へ連絡・受診する必要があります。
1. 初気に現れる主な症状(SOSサイン)
- 胃腸障害:悪心(胸やけ・吐き気)、嘔吐、腹痛、下痢
- 筋肉・全身症状:全身の激しい倦怠感(だるさ)、原因不明の筋肉痛
2. 進行・重症化した際の症状
症状が進行すると、体内の酸性化を補正しようとして呼吸や循環器に重篤な支障が出ます。
- 過呼吸(クスマウル大呼吸):体内の酸排出目的の深く速い呼吸変化
- 脱水・低血圧・低体温の発現
- 意識障害・昏睡(心停止や多臓器不全への至り)
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糖尿病以外にもある!乳酸アシドーシスを起こしやすい人の特徴(10のリスク要件)
メトホルミンを服用しているかどうかに関わらず、またお薬の影響をより受けやすくなる「乳酸アシドーシスの危険因子(ハイリスク群)」が存在します。
以下の条件に該当する方は、特に注意が必要です。
1. 乳酸アシドーシスの既往がある方
過去に一度でも乳酸アシドーシスを起こしたことがある方は再発しやすいため、ビグアナイド薬の投与は慎重に行う(または原則禁忌)とされています。
2. 腎機能障害がある方(軽度〜中等度含む)
メトホルミンは肝臓で代謝されず、そのまま「腎臓」から尿中へ排泄されます。
腎機能が低下していると、お薬が体外へ排出されずに体内に長く留まり(蓄積)、血中濃度が急上昇して乳酸アシドーシスを引き起こします。
※そのため、定期的な血液検査でeGFR(推算腎小球濾過量)をチェックし、腎機能に応じた減量や服薬中止が義務付けられています。
3. 透析治療を受けている方(血液透析・腹膜透析)
自力で老廃物やお薬を排出できないため、透析日までの間にお薬が体内に蓄積し、非常に高い危険を伴います。
4. 肝機能障害がある方
乳酸を処理して代謝する中心的な臓器は「肝臓」です。肝機能が低下していると乳酸の分解能力が落ち、血中乳酸値が容易に上昇してしまいます。
5. 心血管系・呼吸器系(心臓・肺)に障害がある方
心筋梗塞や心不全、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などで全身への酸素供給が不足すると、細胞は酸素を使わずにエネルギーを作る「嫌気性解糖(けんきせいかいとう)」に切り替替えます。
嫌気性解糖を行うと大量の乳酸が副産物として生成されるため、急激な乳酸アシドーシス(A型乳酸アシドーシス)を起こしやすくなります。
6. 習慣的・過度なアルコール摂取がある方
お酒(アルコール)は肝臓での乳酸代謝を阻害し、同時に糖新生も抑制するため、乳酸の蓄積を強く助長します。
7. 脱水症・胃腸障害(シックデイ時)
下痢や嘔吐、発熱、過度な発汗などで体内の水分が不足(脱水)すると、腎臓への血流が減り、お薬の排泄がストップします。
特に風邪や感染症にかかった時(シックデイ)は、食欲低下と脱水が重なり乳酸アシドーシスを非常に起こしやすくなります。
8. 妊婦・妊娠中の方
つわり等による栄養不良や脱水、体内代謝の変化からリスクが高まります。
9. 重症感染症・重篤な外傷・手術前後の方
全身状態の悪化や血流不全により、組織の酸素不足と腎・肝機能低下が同時に起こるため危険性が増します。
10. ヨード造影剤を用いたCT検査などを受ける方
CT検査などで使用する「ヨード造影剤」は、一時的に腎機能を低下させることがあります。そのため、検査前後はメトホルミンの服用を一時休薬するルールが定められています。
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【安心のファクト】実際の発生頻度はごく稀(過度な恐れは不要)
致死率が高く恐ろしい乳酸アシドーシスですが、適切な服薬管理が行われている場合、実際の発生頻度は極めて稀です。
厚生労働省の医薬品安全調査報告書によると、2型糖尿病患者28万3,491例を対象とした調査で、乳酸アシドーシスが認められたのは30例でした。
これは10万人あたりに換算すると年間約5.95人という非常に低い確率です。
医師の指示に従い、定期的な腎機能・肝機能の検査を受け、脱水時休薬などのルールを守っていれば、過度に怖がる必要はありません。
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乳酸アシドーシスの治療法と最新の研究動向
万が一発症した場合の対応と、将来の治療薬として期待される研究成果です。
現行の緊急治療
発症した場合は緊急入院となり、大量の輸液による脱水補正、人工呼吸器管理、血液透析(血液中からメトホルミンと過剰な乳酸を直接除去する)などの集中治療が行われます。
【最新研究】PHD阻害薬による治療の可能性
近年の医学研究において、腎性貧血の治療薬などとして使われる「PHD阻害剤(プロリン水酸化酵素阻害薬)」が、乳酸アシドーシスの特効薬となる可能性が示唆されています。
PHD阻害薬には、血液中に溢れた乳酸を筋肉や腎臓へ積極的に取り込ませて消費させる作用があります。マウスを用いた実験では、乳酸アシドーシスによる死亡率が大幅に低下したことが確認されました。
ヒトへの実用化にはさらなる検証が必要ですが、将来的に有効な治療手段となることが期待されています。
まとめ:正しくリスクを理解し、安全に糖尿病治療を続けよう
- 乳酸アシドーシス(血液中乳酸蓄積・酸性化の重篤病態/致死率約50%)の理解
- 2型糖尿病薬「メトホルミン」による肝臓糖新生抑制に伴う主原因
- 年間10万人あたり約6人という極小発生率と初期症状(吐き気・腹痛・だるさ)の早期捕捉重要性
- 腎不全、脱水症、過度な飲酒、シックデイ時におけるリスク上昇
- 発熱・下痢・嘔吐時等におけるシックデイ・ルールの遵守と主治医・薬剤師相談の徹底
体調を崩した際(発熱・下痢・嘔吐時)はお薬を一時休薬する「シックデイ・ルール」を守り、疑問や不調があればすぐに主治医や薬剤師に相談しましょう。
【関連記事】
- 厚生労働省 e-ヘルスネット:乳酸
- 厚生労働省 e-ヘルスネット:ブドウ糖
- 厚生労働省:医薬品等の安全に係わる調査結果報告書(PDF)
- 一般社団法人 日本糖尿病学会:ビグアナイド薬の適正使用に関する推薦

