タイの伝統行事「ソンクラーン」で見えた、地域とつながる高齢者ケアのカタチ

土橋 壮之
土橋 壮之介護福祉士

介護福祉士の土橋壮之(つちはしまさゆき)です。みなさんからは「ツッチー」と呼ばれています。気軽にそう呼んでいただけると嬉しいです!

街全体がソワソワ!タイの熱い正月「ソンクラーン」とは?

タイの伝統行事「ソンクラーン」
タイの伝統行事「ソンクラーン」

チェンライの4月は、一年でもっとも暑い季節です。

昼間になると気温は40度近くまで上がり、街の空気もどこかソワソワし始めます(コンビニの店員さんもアロハシャツのような派手な服を着ていますしね)。

スーパーには水鉄砲が並び、子どもたちはすでに臨戦態勢。
街全体が「もうすぐソンクラーンだ!」という空気になっていきます。

そんな熱気の中で、タイの正月「ソンクラーン」が始まります。

日本では“水かけ祭り”として紹介されることが多いですが、もともとは仏教的な行事。
年上の方へ敬意と感謝を伝え、新しい一年の幸せを願う伝統的なイベントです。
お寺へ行ったり、家族が集まったり、高齢者の手に水をかけて健康と長寿を願ったりします。

…というと「静かなお祭りなのかな」と思うかもしれませんが、そんなことはありません(笑)
各家の前には大きな水タンクが置かれ、近くを通ると見知らぬ人に水をかけられます。
それも「ピューっ」とかわいくかけられるんじゃないんです。

「ザブーン!」とか「ジャッバーン!」って勢いよくかけられます。
去年はそれで、ポケットに入れていたパスポートがボロボロになりました。

普通、日本で知らない人に突然水をかけられたらブチ切れますよね。
でも、ここでは1年に1回、無礼講でお互いに迷惑をかけあう。
これは一種の「存在確認」みたいな意味もあるのかもしれないな、と思います。
年賀状のような、生存報告というか。
タイ人のあの心地よい「緩さ」は、この祭りの影響も少なからずある気がします。

実際にタイで暮らしてみると、この祭りが単なる観光イベントではなく、「家族」や「地域」のつながりを感じる本当に大切な時間なんだなと実感します。

ソンクラーンの様子
ソンクラーンの様子
ソンクラーンの様子

小さくやるはずが…?「ひだまりHOME」の賑やかなお正月

私が運営するチェンライの高齢者施設「ひだまりHOME」でも、今年もソンクラーンイベントを行いました。

去年は初めての開催だったので、何をどうすればいいのか分からなかったのですが、2年目の今年は少し段取りがつかめてきました。
とはいえ、最初はスタッフ中心で「まずは無理なく、小さくやろう」と計画していたんです。

ところが、準備を始めると状況が一変。

「私も行くよ!」
「子どもを連れていくね!」
「うちの親も参加したいって!」

と、口コミでどんどん人が増えていきました。
こういうところ、本当にタイらしくて大好きです。
こちらが計画した以上に、いつも自然と人の輪が広がっていくんですよね。
当日は、スタッフが企画したファッションショーからスタートしました。
スタッフだけではなく、入居者さんや地域の方々、子どもたちまで飛び入りで参加!

音楽が流れるとみんな自然に踊り始めるし、カラオケも始まります。
途中からは、誰が参加者で誰が見学者なのかわからないくらい、みんなが入り混じって盛り上がっていました。

日本だと「ちゃんと準備して」「進行を決めて」「参加者を整理して」と考えてしまいがちですが、タイはきっちり決めなくても、みんなが勝手に当日を良いものにしてくれるので本当に助かります。

軸だけ決めて、あとはタイの皆さんの「マイペンライ(気にしない、なんとかなる)精神」にお任せ。
でも、それで大成功しちゃうんだから面白いですよね。
その場にいる人が、いつの間にかみんな主役になっていく。
その温かい空気感が、僕はけっこう好きです。
いい国だな、タイ。

高齢者を敬う伝統儀式「ロットナーム・ダムフア」に感動

ロットナーム・ダムフアの様子
ロットナーム・ダムフアの様子

そしてイベントの中で、僕たちが特に大切にしていたのが、「ロットナーム・ダムフア」というタイの伝統的な儀式でした。

これは、人生の先輩である高齢者の手にそっとお水をかけ、敬意と感謝を伝え、お言葉をいただくという時間です。
日本でいうと、お正月の挨拶や敬老の文化に少し近いかもしれません。
でもタイでは、それが今でも地域の中で当たり前の暮らしとして残っています。

高齢者がちゃんとコミュニティの中心にいて、そこへ家族や地域の人たちが集まってくる。

その光景を見ていると、「高齢者を大切にする」ということが、特別な福祉活動ではなく、ごく普通の「暮らしの文化」として根付いているんだなと感じます。
ひだまりHOMEでも、入居者さんお一人おひとりに、ご家族やスタッフ、地域の方々が丁寧にお水をかけていきました。

この時、皆さん本当にいい表情をされるんです。
笑顔で手を合わせたり、冗談を言ったり、中には涙ぐむご家族もいたり。
その瞬間は、「介護される人」「介護する人」という垣根なんて、どこにもありませんでした。

その時、ある入居者さんが僕の手をギュッと握り、頭をなでながらこう言ってくださったんです。

「ツッチー社長さん、ひだまりHOMEをもっと大きくして、これからも頑張ってね」

ありがたいお言葉をいただいた瞬間、なんだか神様からお告げをいただいているような、厳かな気持ちになりました(笑)
実際、普段はけっこう我がままで手がかかる入居者さんなんですけどね。
でも、こういう人生の節目に見せてくれる姿は、やっぱり人生の先輩として頼もしいなと感じます。

異国での不安が消えた瞬間。ここは“暮らし”そのもの

私はここで施設を運営していますが、タイではどこまでいっても外国人です。
言葉も完璧ではないし、文化も違います。

地域の中に入っていく時も、「どう思われているんだろう」「本当に受け入れてもらえているんだろうか」という不安は、いつも心のどこかにあります。
たぶん、海外で挑戦している人なら、みんな少しは共感してくれるんじゃないでしょうか。

だからこそ、入居者さんからその言葉をもらえた時、「ああ、少しずつだけど、自分もこの地域の一部になれてきているのかもしれない」と、すっと救われたような気持ちになれたんです。

…感動的な儀式の後は、お待ちかねのソンクラーン恒例「水かけタイム」です!

ここからは完全に無礼講。
スタッフも地域の人たちも、「ここぞとばかりに」私に水をかけてきます。
私も象柄のタイパンツを履いて全力で応戦しましたが、最後は完全に集中砲火を浴びました。
一応、これでも社長なんですけどね(笑)。
最終的にはビニールプールに投げ込まれて、全身びしょ濡れになりました。

でも、激しい水かけの中で、ふと思ったんです。
「ああ、ここに“ひだまりHOME”があるから、こうしてみんなで集まれているんだな」と。
ソンクラーンって、人が集まらないとできない祭りです。

ここにひだまりHOMEがあるから、地域の人も、ご家族も、入居者さんと一緒に最高のソンクラーンができた。
そう思ったら、「僕は外から来た人間だけど、この温かい輪をつくるきっかけになれたのかもしれない」と思えました。

この場所は、ただの介護施設じゃない。
人が集まり、つながり、笑い合える“暮らし”そのものです。
自分がここで本当に実現したかったことが、ちゃんと形になり始めている。
そんな手応えを感じられた最高のイベントになりました。

たくさんの応援と笑顔に包まれた最高のソンクラーン😉

サワディー・ピーマイ・カップ(สวัสดีปีใหม่ครับ)!
(タイの皆さん、あけましておめでとうございます!)

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筆者プロフィール

ツッチーの旅する介護士日記
介護福祉士
ツッチーの旅する介護士日記
TVCM業界からひょんなことをきっかけに介護の仕事に転身。日本、イギリス、そしてベトナムへ、世界の介護現場を回る旅に出る。
WRITTEN BY
土橋 壮之
土橋 壮之
介護福祉士
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