事故や病気などの後遺症として生じる「高次脳機能障害」。
怒りっぽくなったり、相手の都合を無視した行動を取ったり、約束を忘れて開き直ったりすることで、「急にわがままになった」「自己中心的で振り回される」と周囲やご家族が悩むケースが少なくありません。
高次脳機能障害は、手足の麻痺などの身体的障害と比べて外見からは変化が分かりにくいため、単なる「性格の変化」や「わがまま」と誤解されやすい特徴を持っています。
この記事では、なぜ高次脳機能障害の方がわがままに見えてしまうのか(原因となる症状)、周囲の適切な対応法・接し方のコツ、最新のリハビリテーションや専門相談窓口についてわかりやすく解説します。

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高次脳機能障害とは?外見からは分かりにくい「見えない障害」
高次脳機能障害とは、脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)などの脳血管障害や、交通事故・転倒による頭部外傷、脳炎、低酸素脳症などによって脳が損傷し、認知・言語・記憶・感情などの高度な脳機能に支障が出た状態です。
身体的な麻痺が軽度、あるいは全くない場合、見た目には健康そうに見えるため、症状によって生じる不適切な言動が「本人の甘え」「性格が悪くなった」「わがまま」と誤解されがちです。
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高次脳機能障害の方が「わがまま」に見えてしまう原因(4つの症状)
ご本人が意図して周囲を困らせようとしているわけではありません。
脳の損傷による認知機能やブレーキ機能の低下が原因で、結果としてわがままに見える言動を引き起こしています。
① 社会的行動障害(感情や行動のコントロール低下)
周囲から最も「わがまま」と捉えられやすい症状です。
- 感情コントロールの低下(感情失禁・易怒性):わずかなことで急に激怒する、泣き出すなど、感情のブレーキが効かなくなります
- 脱抑制・衝動性:欲しいものがあると我慢できずに買ってしまう、思ったことを配慮なく口にしてしまう、場にそぐわない行動を取る
- 固執性(こだわり):自分の思い通りにならないと納得せず、一つの考えや手順に強く執着する
- 共感性の低下・自己中心性:他人の気持ちや都合を推し量ることが難しくなり、相手を気遣う言動が減る
② 記憶障害(約束を忘れる・前言撤回する)
新しい出来事や約束を保持することが難しくなります。
- 症状:約束をしたこと自体を忘れてしまう、同じ話を何度も繰り返す
- わがままに見える理由:「そんな約束はしていない」「聞いていない」と本人は本気で思っているため、不都合なことから逃げている(嘘をついている・逆ギレしている)ように周囲には映ってしまいます
③ 遂行機能障害(段取りが立てられない・時間を守れない)
物事の計画を立て、優先順位を決めて実行する能力が低下します。
- 症状:時間配分ができず約束に遅刻する、途中で計画外の行動をして作業が中断する
- わがままに見える理由:指示された通りに動かない、自分勝手なペースで物事を進めて周囲に迷惑をかけているように見えてしまいます
④ 注意障害(集中が続かない・同時に2つのことができない)
必要な情報だけに集中したり、周囲に配慮したりする注意力が低下します。
- 症状:テレビに夢中になると呼びかけに反応しない、作業中にすぐ気が散る
- わがままに見える理由:話を聞いていない、自分のやりたいことだけに夢中になっているように見えます
※また、自分自身に障害があることを自覚・認識できない「病識の低下(欠如)」を伴っていることも、言動を修正しにくくさせる要因となります。
「わがまま」と感じたときの正しい対応法・接し方のコツ
ご本人の言動に対して正論で反論したり、強く責め立てたりすると、パニックやさらなる激怒(感情爆発)につながります。
周囲が症状の特性を理解し、接し方を工夫することが大切です。
① 記憶障害への対応:メモや「見える化」を活用する
- 約束やスケジュールは口頭だけでなく、カレンダーや連絡ノート、ホワイトボードに書く
- 「約束したでしょ!」と責めるのではなく、「カレンダーに書いておいたから一緒に確認しようね」と客観的な事実を示す
② 注意障害・遂行機能障害への対応:環境を整え、手順をシンプルにする
- 食事中や作業中はテレビを消すなど、集中を妨げる雑音や誘惑を減らす
- 一度に複数の指示を出さず、「まず着替えてください」「次に靴を履きます」と1つずつ具体的に伝える
- 家事や日課は手順書(チェックリスト)を作成し、貼り出しておく
③ 社会的行動障害への対応:感情的にならず、一息置く
- 興奮・激怒した場合:反論せず、安全を確保した上で一度その場を離れ、クールダウンの時間を作る
- 固執(こだわり)が出た場合:無理に説得しようとせず、「今は一回休憩にしよう」「後でまた話そう」と注意を別の方向(別の行動やおやつなど)に向ける
- 感情が落ち着いてから対話する:感情が爆発している最中は言葉が届きません。落ち着いたタイミングで「何が嫌だったのか」を短く聞き取ります
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専門機関で行うリハビリテーション(認知リハビリ)
高次脳機能障害による症状は、適切なリハビリテーションと環境調整によって改善や安定を目指すことができます。
- 記憶障害のリハビリ:スマートフォンのアラームやメモ帳などを活用する「外的代償手段」の習得訓練、日常生活のルーティン化
- 注意障害のリハビリ:パズルや作業課題を用い、時間を決めて集中力を持続させる訓練、徐々に課題の難易度や雑音のある環境へ移行する訓練
- 遂行機能障害のリハビリ:料理や買い物の手順を事前に紙に書き出し、実際に実行した後に「何がうまくいかなかったか」を振り返る(フィードバック)訓練
- 社会的行動障害のリハビリ:不適切な行動が出そうになった際のサインを学び、ご本人自身が「一度深呼吸する」「別の場所に移動する」などの回避策を身につける行動療法
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家族だけで抱え込まない!相談窓口と社会的支援
高次脳機能障害の方を介護・支援するご家族の精神的・肉体的負担は計り知れません。
一人で抱え込まず、外部の専門機関や制度を積極的に頼りましょう。
主な相談窓口
- 高次脳機能障害支援センター:各都道府県・指定都市に設置されており、専門の支援コーディネーターが医療・福祉・就労に関する相談に乗ってくれます
- 地域包括支援センター/市区町村の障害福祉課:日常生活の困りごとや介護保険・障害福祉サービスの利用について相談できます
- 家族会:同じ悩みを抱えるご家族同士で情報交換や気持ちの共有ができる場です
活用できる制度・手帳
- 精神障害者保健福祉手帳:高次脳機能障害(認知・行動障害)で取得可能。税制優遇や交通機関の割引、福祉サービスの利用につながります(身体麻痺がある場合は「身体障害者手帳」も対象)
- 自立支援医療(精神通院医療):通院医療費の自己負担が原則1割に軽減されます
- 障害福祉サービス(自立訓練・就労移行支援など):地域生活や復職・就労に向けたリハビリ・訓練を受けられます
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高次脳機能障害の「わがまま」に関するよくある質問(Q&A)
Q1. 本人が「自分は病気でも障害でもない」と言い張り、リハビリや支援を拒否します。
A. 障害の自覚が持てない「病識欠如」も高次脳機能障害の典型的な症状の一つです。無理に「あなたは障害がある」と認めさせようとすると反発を招きます。「リハビリ」ではなく「体力作り」「復職に向けた準備講座」など、ご本人が納得しやすい名目で受診やサービス利用を促す工夫が効果的です。
Q2. 暴言や暴力がある場合、どうすればいいですか?
A. 家族の安全確保が最優先です。暴言・暴力が出た際はすぐに距離を取り、別の部屋へ避難してください。症状が激しい場合は、主治医に相談して感情を落ち着かせる薬(気分安定薬など)の調整を行うことや、一時的な入院・ショートステイの活用を検討しましょう。
まとめ
高次脳機能障害の方の「わがまま」について、重要ポイントをおさらいします。
- 「わがまま」に見える言動は、脳の損傷による社会的行動障害・記憶障害・遂行機能障害・注意障害が原因である
- 本人に悪意があるわけではないため、責めたり怒鳴ったりせず、メモの活用や指示の簡略化、環境調整で対応する
- リハビリテーション(代償手段の獲得や行動療法)によって、少しずつ生活上の困りごとを減らしていくことが可能
- ご家族だけで抱え込まず、高次脳機能障害支援センターや各種福祉サービスを活用する
ご本人の言動を「障害の症状」として客観的に捉えられるようになると、周囲の接し方や気持ちの持ちようも変わってきます。
専門機関の手を借りながら、根気強くサポート体制を整えていきましょう。

