高次脳機能障害は、病気や事故などによる脳の損傷によって、記憶力、注意集中力、段取りの能力、感情のコントロールなどに障害が生じる後遺症です。症状が軽度の場合は「性格の変化」や「不注意」と見過ごされ、適切な支援につながらないケースも多いため、正確な診断基準や症状の理解が欠かせません。
※関連記事:高次脳機能障害とは?原因や症状、診断基準について解説

スポンサーリンク
高次脳機能障害とは?
高次脳機能障害とは、脳の器質的病変(怪我や病気による組織の損傷)によって生じる認知機能障害の総称です。
発症者の年代別では60歳以上の高齢者が約7割を占め、性別では男性の割合が高い傾向にあります。重度の場合は言動や行動の変化が顕著で周囲も気づきやすい一方、軽度の場合は「本人のモチベーション低下」や「加齢による物忘れ」と誤解されやすく、本人自身も自覚できないまま社会生活に行き詰まってしまうことがあります。
高次脳機能障害の主な原因
高次脳機能障害を引き起こす主な原因は、「脳血管障害」と「外傷性脳損傷」の2つが大半を占めます。
脳血管障害(全体の約8割)
脳血管障害(脳卒中)は、高次脳機能障害の最大の発症原因です。特に60歳以上の発症例では、約9割が脳血管障害に起因します。
- 虚血性脳卒中・脳梗塞(脳の血管が詰まり、血流が途絶えて神経細胞が損傷する)
- 出血性脳卒中・脳出血・くも膜下出血(脳の血管が破れて出血し、周囲の脳組織を圧迫・損傷する)
外傷性脳損傷(全体の約1割)
交通事故、高所からの転落・転落事故、スポーツ中の強打など、頭部に外部から強い衝撃が加わることで脳組織や神経線維が損傷します。
その他の原因
- 低酸素脳症(心停止、呼吸不全、溺水、麻酔事故などによる脳への酸素供給停止)
- 脳炎・急性脳症(ウイルス感染症や細菌感染に伴う脳の発炎)
- 脳腫瘍(腫瘍自体による脳組織の圧迫や、開頭手術に伴う影響)
スポンサーリンク
軽度な高次脳機能障害で見られる症状
高次脳機能障害の症状は多岐にわたり、複数の症状が重複して現れるのが特徴です。一見すると普通に会話ができるため、軽度の症状は見落とされがちです。
1. 記憶障害
- 繰り返し説明を受けても、すぐに同じことを質問する
- 置き忘れや物忘れが頻繁に起きる
- 新しい出来事や人の名前、顔が覚えられない
- 以前できていた作業のやり方を忘れてしまう
2. 注意障害
- テレビの音や周囲の動きに気を取られ、作業や食事が中断する
- ぼーっとすることが増え、ケアレスミスや事故を起こしやすい
- 長時間の作業に集中が続かない
- 二つの作業(料理をしながら会話するなど)を同時進行するとパニックになる
3. 遂行機能障害
- 計画を立てて順序立てて行動することができない
- 待ち合わせ時間や約束の時間を守れない
- 指示されないと何をしていいかわからず自発的に動けない
- 急な予定変更に対応できず混乱する
4. 社会的行動障害
- 些細なことで激怒する、大声を出す、暴力を振るう
- 欲求のコントロールができず、自己中心的な行動をとる
- 相手の気持ちを推しはかることができず、人間関係を壊してしまう
- 逆に抑うつ状態になり、無気力・無関心になる
5. その他の神経心理学的症状
- 半側空間無視(視力に問題がないにもかかわらず、片側の空間や物体を認識できない。主に左側に起きやすい)
- 失行症(運動機能に問題がないのに、ハサミや箸などの道具の使い方がわからなくなる)
- 失認症(視覚や聴覚などの感覚は正常なのに、対象が何であるかを認識できない)
- 失語症(言葉を聞いて理解することや、言いたい言葉を話す・書くことが困難になる)
※関連記事:高次脳機能障害の軽度症状とは?見落とされやすい症状と対応策
※関連記事:高次脳機能障害の記憶障害・注意障害とは?具体例と対策
厚生労働省による高次脳機能障害の診断基準
高次脳機能障害は多様な症状を示すため、厚生労働省(障害保健福祉部)によって公的な行政診断基準が定められています。
- I.主要症状等(脳の器質的病変の原因となる事故による受傷や疾病の発症の事実が確認されている。現在、日常生活または社会生活に制約があり、その主たる原因が記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害である)
- II.検査所見(MRI、CT、脳波などにより認知障害の原因と考えられる脳の器質的病変の存在が確認されているか、あるいは診断書により脳の器質的病変が存在したと確認できる)
- III.除外項目(脳の器質的病変に基づく認知障害のうち、身体障害として認定可能である症状を有するが上記主要症状を欠く者は除外する。診断にあたり、受傷または発症以前から有する症状と検査所見は除外する。先天性疾患、周産期における脳損傷、発達障害、進行性疾患を原因とする者は除外する)
- IV.診断(I〜IIIをすべて満たした場合に高次脳機能障害と診断する。高次脳機能障害の診断は、脳の器質的病変の原因となった外傷や疾病の急性期症状を脱した後において行う。神経心理学的検査の所見を参考にすることができる)
※画像検査(MRI・CT)で明らかな病変が確認できない場合であっても、受傷・発症時の意識障害の記録や神経心理学的検査結果などから慎重に評価され、高次脳機能障害と判定されるケースもあります。
※関連記事:高次脳機能障害の診断基準とは?検査方法や流れを解説
スポンサーリンク
高次脳機能障害の方が利用できる公的支援制度
高次脳機能障害と診断された場合、障害者手帳の取得や公的な医療・福祉サービスの利用が可能です。
精神障害者保健福祉手帳の交付
高次脳機能障害によって認知機能や行動に障害が残った場合、精神保健福祉法に基づく「精神障害者保健福祉手帳(1級〜3級)」の申請が可能です。(※肢体不自由や言語障害などを伴う場合は、身体障害者手帳との重複申請も可能です。)
手帳取得による主な優遇措置
- 税制上の優遇(所得税・住民税・自動車税の控除・減免)
- 公共交通機関(鉄道・路線バス等)の運賃割引
- 自治体独自の生活手当や助成制度
- 携帯電話基本料金等の各種割引
- 障害者雇用枠での就職・再就職への応募資格
障害者総合支援法に基づく障害福祉サービス
- 介護給付(居宅介護、重度訪問介護、生活介護など)
- 訓練等給付(自立訓練、就労移行支援、就労継続支援など)
- 相談支援・地域活動支援(地域生活支援事業による相談、ピアサポート、就労相談など)
介護保険制度による介護サービス
- 65歳以上の方(要介護・要支援認定を受けることで、すべての介護保険サービスを利用可能)
- 40歳〜64歳の方(脳血管障害が原因で要介護状態となった場合、初老期認知症や脳血管疾患として特定疾病に該当するため、介護保険サービスを利用可能。事故による外傷性脳損傷の場合は対象外となり、障害福祉サービスを利用する)
※関連記事:高次脳機能障害で利用できる障害福祉サービスと介護保険
スポンサーリンク
高次脳機能障害のリハビリテーションと回復のポイント
高次脳機能障害に対するリハビリテーションは、単に機能を訓練するだけでなく、残された機能を活用する「代償手段の習得」と「環境の調整」を並行して行います。
症状別の具体的なリハビリ方法
- 記憶障害へのアプローチ(メモ帳やカレンダー、スマートフォンのスケジュール管理・アラーム機能を日常的に使う習慣をつける。言葉とイメージを結びつける訓練なども行われる)
- 注意障害へのアプローチ(静かな部屋で一つの作業に集中する練習から始め、徐々に刺激のある環境へ移行する。タイマーを使って集中時間を区切ったり、定期的な休憩を取り入れたりする)
- 遂行機能障害へのアプローチ(作業の手順を細かく紙に書き出し、チェックリストを見ながら一つずつ工程をこなしていく訓練を行う)
- 社会的行動障害へのアプローチ(衝動的な行動が起きた原因や状況を後から振り返る認知行動療法や、落ち着ける静かな環境を事前に確保する環境調整を行う)
※関連記事:高次脳機能障害のリハビリテーション方法と回復のポイント
スポンサーリンク
高次脳機能障害の回復と周囲のサポート
高次脳機能障害は適切なリハビリテーションと環境調整によって、時間をかけて徐々に症状が改善・安定していきます。完全に元の状態に戻すことが困難であっても、代償手段を獲得することで日常生活や復業を果たしている例は数多く存在します。
本人だけでなく、ご家族、医療従事者(医師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・公認心理師)、職場の理解と協力体制を構築することが、回復と社会復帰への一番の近道です。
専門的な相談や詳しい情報が必要な場合は、各都道府県に設置されている「高次脳機能障害支援センター」や、地域の「地域包括支援センター」「基幹相談支援センター」などの専門窓口を積極的に活用しましょう。

