事故や病気などをきっかけに、「急に怒りっぽくなった」「物忘れがひどく仕事でミスを連発する」「計画を立てて行動できない」といった変化が表れる「高次脳機能障害」。
外見からは障害が分かりにくいため「見えない障害」とも呼ばれ、ご本人やご家族が周囲の理解を得られず苦しむケースが少なくありません。
- 高次脳機能障害は治るのだろうか?
- どのような治療やリハビリを行えばいいの?
- 発達障害(ADHD等)と症状が似ているけれど、どう違うの?
この記事では、高次脳機能障害の原因や主な症状、最新のリハビリテーション治療、薬物療法の役割、発達障害との決定的な違いについてわかりやすく解説します。

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高次脳機能障害とは?原因と主な症状
高次脳機能障害とは、事故や病気によって脳が部分的損傷を受けた結果、言語・記憶・注意・思考・感情などの「高次脳機能」に支障が出た状態を指します。
主な原因
高次脳機能障害の原因は大きく2つに分けられます。
- 脳血管障害(全体の約7〜8割):脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、モヤモヤ病など
- 頭部外傷・その他の疾患(全体の約2〜3割):交通事故や転倒による頭部外傷、脳炎、低酸素脳症、脳腫瘍など
近年では、救急医療の発達により命が助かるケースが増えた一方で、後遺症として高次脳機能障害が残る方が増えています。
4つの代表的な症状
高次脳機能障害の症状は多様ですが、主に以下の4つが代表的です。
| 症状の種類 | 具体的な状態・行動の例 |
|---|---|
| 記憶障害 | ・新しいことが覚えられない ・数分前の出来事や約束を忘れる ・同じ質問を何度も繰り返す |
| 注意障害 | ・集中力が続かない、ミスが増える ・同時に2つの作業ができない ・話の途中で気が散ってしまう |
| 遂行機能障害 | ・計画を立てて段取りよく行動できない ・予期せぬトラブルに対応できない ・優先順位がつけられない |
| 社会的行動障害 | ・感情のコントロールが効かず怒り出す(易怒性) ・欲求を抑えられない、こだわりが強くなる ・やる気が全く出ない(自発性の低下) |
※このほか、自分自身に障害があることを認識・理解できない「病識欠如(病識の低下)」を伴うことも大きな特徴です。
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高次脳機能障害の治療法|リハビリテーションが中心
現在、損傷した脳細胞そのものを完全に元通りにする根本的な治療法は確立されていません。そのため、高次脳機能障害の治療は「リハビリテーション(認知リハビリテーション)」が中心となります。
脳には、傷ついた神経回路を別の回路が補おうとする「脳の可塑性(かそせい)」という性質があります。適切なリハビリを繰り返すことで、失われた機能を回復させたり、別の手段で補ったりすることが可能です。
認知リハビリテーションの3つのアプローチ
① 機能回復訓練(低下した能力そのものを鍛える)
直接的に脳に刺激を与え、低下した機能をトレーニングによって呼び戻す手法です。
例:記憶力を鍛えるためのカードゲーム(神経衰弱など)、集中力を高めるための計算や漢字ドリル、文章の要約訓練など。
② 代償手段獲得訓練(残された能力で補う)
回復が難しい機能を、便利グッズや工夫(代償手段)を使って補う訓練です。日常生活や仕事への復帰において非常に重要視されます。
例:メモ帳やスケジュール帳、スマートフォンのアラーム・カレンダーアプリの活用、手順書(チェックリスト)を作成した作業の標準化。
③ 環境調整と周囲のサポート(環境への働きかけ)
ご本人の努力だけに頼るのではなく、生活空間や周囲の関わり方を工夫して生きやすさを整える方法です。
例:物の置き場所を固定してラベルを貼る、部屋に案内標識をつける、ご家族や職場のスタッフが「一度に複数の指示を出さず、1つずつ短く伝える」といった接し方の統一。
時期に応じた段階的リハビリ
高次脳機能障害のリハビリは、発症からの時期(フェーズ)に合わせて切れ目なく行われます。
- 急性期(発症〜数週間):命の救命と全身状態の安定、早期からの離床訓練
- 回復期(〜発症後6ヶ月程度):専門病院(回復期リハビリテーション病棟等)での集中した認知リハビリ・日常動作訓練
- 生活期・維持期(退院後):自宅や地域(デイケア、自立訓練事業所など)での生活定着、復職・就労支援サービスを活用した社会復帰支援
薬物療法の役割(対症療法)
高次脳機能障害そのものを治す特効薬はありませんが、精神症状や行動障害、二重に生じる感情障害を抑えるための補助的なアプローチとして「薬物療法」が併用されます。
主な薬物投与の目的と薬の種類
- 易怒性・興奮・感情失禁(感情の激しさ)に対して:気分安定薬、少量の抗精神病薬、漢方薬(抑肝散など)
- 抑うつ状態・意欲低下に対して:抗うつ薬(SSRI・SNRIなど)
- 不眠・夜間興奮に対して:睡眠導入剤、メラトニン受容体作動薬
- 注意障害・記憶障害に対して:認知症治療薬(ドネペジルなど)や脳代謝改善薬が試行的に用いられる場合もあります
薬の服薬は、リハビリテーションや生活訓練をスムーズに進めるための「環境づくり」として有効に機能します。
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高次脳機能障害と発達障害(ADHD等)の違い
高次脳機能障害の症状(不注意、計画性のなさ、感情のコントロール困難など)は、発達障害(特にADHD:注意欠如・多動症やASD:自閉スペクトラム症)の症状と酷似しています。
しかし、両者は発症の時期や背景が根本的に異なる「別の障害」です。
高次脳機能障害と発達障害の比較
| 項目 | 高次脳機能障害 | 発達障害(ADHD/ASD等) |
|---|---|---|
| 発症の時期 | 後天的(事故や病気により突然発症) | 生まれつき(乳幼児期〜小児期から存在) |
| 原因 | 脳梗塞、脳出血、頭部外傷などの明確な脳の受傷 | 生まれ持った脳機能の発達のアンバランス |
| 受傷前との変化 | 明確なギャップがある(以前できたことができなくなった) | 生涯を通じた行動傾向(大人になってから発覚することもある) |
| 主な診断基準 | 画像診断(CT/MRI)や受傷歴+神経心理学的検査 | 生育歴の聴取、心理検査、行動観察 |
小児の高次脳機能障害に注意
子どもの時期に頭部外傷や脳炎などを起こすと、後から「小児高次脳機能障害」として症状が現れることがあります。
成長に伴って要求される社会性が高まった際(就学や進学時)に問題が表面化するため、発達障害と見分けがつきにくいケースがあり、詳しい生育歴や既往歴の確認が不可欠です。
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高次脳機能障害に関するよくある質問(Q&A)
Q1. 高次脳機能障害は完全に元通り(完治)しますか?
A. 損傷の程度や部位によって個人差が大きく、発症前の状態へ完全に戻る(完治する)ことは容易ではありません。しかし、適切なリハビリや代償手段の活用、環境調整によって、支障なく日常生活や就労に復帰されている方は大勢います。「完治」を目指すだけでなく、「障害と上手に付き合い、自分らしい生活を再構築する」という視点が大切です。
Q2. 家族がイライラしたり暴言を吐いたりするとき、どう対応すればいいですか?
A. 感情の爆発(易怒性)は、脳のブレーキ機能が壊れている状態であり、本人が悪意を持って行っているわけではありません。正面から反論したり責めたりすると逆効果になります。興奮した際は距離を置いてクールダウンの時間を設ける、静かな環境へ移動させる、指示は短い言葉で具体的に伝えるなどの工夫が有効です。
Q3. 高次脳機能障害の人が利用できる社会的支援や手帳はありますか?
A. 利用可能です。症状に応じて「精神障害者保健福祉手帳」を取得できるほか、身体麻痺がある場合は「身体障害者手帳」も対象となります。また、障害年金の受給や、自立支援医療(精神通院医療)、地域障害者職業センターなどによる「復職・就労支援プログラム」を活用できます。
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まとめ
高次脳機能障害の原因や治療・リハビリについて、重要ポイントをおさらいします。
- 原因:脳梗塞や脳出血などの「脳血管障害」が約8割、残りが頭部外傷や脳腫瘍など
- 症状:記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害の4大症状と、病識の低さが特徴
- 治療法:特効薬はなく、認知リハビリテーション(機能回復・代償手段・環境調整)が治療の柱となる
- 薬物療法:イライラやうつ、不眠などの精神症状に対する「対症療法」として併用される
- 発達障害との違い:発達障害は生まれつき、高次脳機能障害は病気やケガによる後天的な障害である
高次脳機能障害の克服に向けては、ご本人やご家族だけで抱え込まず、専門医(リハビリテーション科、脳神経外科、精神科など)や高次脳機能障害支援センター、地域包括支援センターなどの専門機関と連携しながら、焦らず一歩ずつ進めていくことが大切です。

