事故や病気の後遺症として生じる「高次脳機能障害」の中でも、最も多くの人が直面するのが「記憶障害」です。
- 新しいことが全く覚えられない
- さっき交わした約束を忘れてしまい、仕事や生活に支障が出ている
- 失われた記憶を取り戻すためのリハビリ方法はあるの?
このように、記憶障害はご本人だけでなく、生活を支えるご家族にとっても大きな不安や困りごとの原因となります。
この記事では、高次脳機能障害による記憶障害の具体的な症状(前向性健忘・作話・見当識障害など)、認知リハビリテーションの最新手法(外的補助・内的記憶戦略・環境調整)、周囲の適切な接し方までわかりやすく解説します。

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高次脳機能障害とは?
高次脳機能障害とは、脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など)や頭部外傷(交通事故や転倒)、脳炎、低酸素脳症などによって脳が損傷し、認知、言語、記憶、感情コントロールなどの高度な脳機能に支障が出た状態を指します。
主な症状
- 記憶障害:体験したことや約束を忘れてしまう
- 注意障害:集中力が続かない、ミスが増える、同時に2つのことができない
- 遂行機能障害:計画を立てて段取りよく行動できない
- 社会的行動障害:感情のコントロールが効かず怒りっぽくなる、依存的になる
- 失語症・病識欠如:言葉の理解や発音が困難になる、自分の障害を認識できない
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高次脳機能障害で起こる記憶障害の4つの症状
高次脳機能障害における記憶障害は、加齢による単なる「物忘れ」とは大きく異なります。主な特徴的な症状は以下の4つです。
① 新しいことが覚えられない(前向性健忘/短期記憶障害)
受傷・発症した後の新しい出来事や情報を記憶に定着させることが困難になります。
具体例:数分前に食べた食事のメニューや食べたこと自体を忘れる、約束の時間や場所を覚えられない、同じ話を何回も繰り返す、置いた場所を忘れて探し物ばかりする。
物忘れとの違い:加齢による物忘れは「ヒントがあれば思い出せる」「体験の一部を忘れる」のに対し、高次脳機能障害では「ヒントがあっても思い出せない」「体験そのものが抜け落ちている」のが特徴です。
② 受傷・発症前の記憶が思い出せない(逆行性健忘)
脳を損傷する前の古い記憶や過去の出来事を忘れてしまう症状です。
具体例:自分の職歴や学歴、昔の出来事を思い出せない、旧知の友人や親族の顔と名前が一致しない。
③ 見当識障害(時間・場所・人の認識低下)
自分が「今、どこで、誰と、どのような状況にいるのか」を正確に把握できなくなる障害です。
- 時間の見当識障害:今日の日付、曜日、季節、現在の時刻が分からなくなる(真夜中に仕事へ行こうとする、季節外れの服を着る等)
- 場所の見当識障害:今いる場所(病院、自宅、近所)が分からなくなり、道に迷ったりトイレに行けなくなったりする
- 人の見当識障害:配偶者を自分の親と勘違いしたり、医師や看護師、家族を認識できなくなったりする
④ 作話(さくわ/事実と異なる話をする)
記憶が抜け落ちている部分を埋めようとして、本人が無意識に事実とは異なるストーリーを作り上げて話してしまう現象です。
特徴:本人に「嘘をつこう」「騙そう」という悪意は一切ありません。欠落した記憶に対する脳の自己防衛反応(代償作用)であり、周囲から矛盾を指摘されると混乱したり、さらに辻褄を合わせようとストーリーを重ねたりすることがあります。
高次脳機能障害による記憶障害のリハビリテーション
記憶障害のリハビリテーション(認知リハビリ)は、脳の可塑性(傷ついた神経回路を別の回路が補う働き)を促すアプローチと、利便性の高いツールを活用して生活の支障を減らすアプローチを組み合わせて行います。
① 外的補助手段の活用(生活の標準化)
記憶そのものを元通りにするのが難しい場合、外部の道具や機器を使って記憶を補う手法で、最も実用的かつ効果的とされています。
- デジタルツールの活用:スマートフォンやスマートウォッチのアラーム機能、カレンダーアプリ、リマインダー機能を設定し、予定の持ち物や服薬時間を通知する
- アナログツールの活用:メモ帳、壁掛けカレンダー、ホワイトボード、手順書(チェックリスト)を定位置に置く
- 定着のための訓練:「メモを取る」「メモを見返す」という行動自体を忘れてしまわないよう、繰り返しの習慣化トレーニングを行う
② 環境調整(間違いの起こりにくい環境づくり)
ご本人が記憶力を酷使しなくてもスムーズに暮らせるよう、生活空間を整える手法です。
- 置き場所の固定化(定位置化):鍵、財布、眼鏡、薬などの貴重品は置き場所を1箇所に決め、引き出しに名前やイラストのラベルを貼る
- 日課のルーティン化:起床から就寝までのスケジュールをパターン化し、同じ順番で行動できるようにする
③ 内的記憶戦略(覚え方の工夫)
記憶を脳に取り込み、引き出しやすくするための工夫やテクニックです。
- 視覚イメージ法:覚えたい情報と画像やイメージを結びつける
- 顔—名前連想法:「佐藤さん」という名前を覚える際、「甘いものが好きそうな佐藤(砂糖)さん」のように特徴とイメージを連用させる
- ペグ法(関連づけ):自分の身体(手の指など)や知っている場所に、順番に覚えたい持ち物や作業を割り当てて記憶する
- 反復訓練・復唱:覚えたい情報を声に出して何度も繰り返し発声したり書き写したりする
④ 領域特異的知識の学習・手がかり漸減(ぜんげん)法
特定の重要事項(家族の電話番号、自分の住所、通勤ルート等)を重点的に覚える方法です。最初は十分なヒント(手がかり)を与え、段階的にヒントを減らしていき、自力で正確に思い出せるようにステップアップしていきます。
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なぜ高次脳機能障害になると「子供っぽく」「わがまま」に見えるのか?
記憶障害や高次脳機能障害の患者さんは、周囲から「急に子供っぽくなった」「自己中心的でわがままになった」と誤解されることがあります。
これには明確な脳のメカニズムがあります。
- 感情のブレーキ(前頭葉)の低下:脳の損傷により感情や欲求を抑制する機能が弱まり、我慢ができなくなったり、すぐ怒ったりしてしまう(脱抑制・易怒性)
- 記憶の欠落による混乱:約束を忘れて「そんな約束はしていない」と言い張る動作は、本人にとっては不都合な嘘ではなく、本当に記憶にないため自分の正当性を主張している結果
- 同時処理の困難:遂行機能障害や注意障害により、周囲の状況や他人の気持ちに配慮しながら行動する余裕がなくなる
「性格が変わった」「わがままを言っている」と責めるのではなく、「脳の障害による症状が出ている」と客観的に捉えることが、ご家族の精神的負担を和らげる第一歩となります。
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記憶障害に関するよくある質問(Q&A)
Q1. 記憶障害はリハビリで完全に治りますか?
A. 損傷した脳の部位や程度により個人差があり、完全な完治(病前の状態への完璧な復元)は容易ではありません。しかし、メモやスマートフォンの活用などの「外的補助手段」を習得し、環境を整えることで、日常生活や社会生活における困りごとを大幅に減らし、自立した生活を送ることは十分に可能です。
Q2. 家族が同じことを何度も聞いてくるとき、どう答えるのが正解ですか?
A. 「さっきも言ったでしょ!」「どうして忘れるの?」と感情的に詰問すると、ご本人は自尊心を傷つけられ、イライラやパニック(感情爆発)を引き起こします。「〜ですよ」と何度でも穏やかに短く答えたり、スケジュール表やメモを指差しして「ここに書いてあるよ」と確認を促したりするのが効果的です。
Q3. どのような専門機関にリハビリを相談すればいいですか?
A. 病院のリハビリテーション科、神経内科、脳神経外科のほか、都道府県ごとに設置されている「高次脳機能障害支援センター」や、地域包括支援センター、障害者職業センターなどに相談することができます。
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まとめ
高次脳機能障害に伴う記憶障害について、要点を整理します。
- 記憶障害の症状には、新しいことが覚えられない(前向性健忘)、作話、見当識障害(時間や場所が分からない)などがある
- リハビリテーションでは、単に脳を鍛えるだけでなく、スマホやメモなどの「外的補助手段」の活用や「環境調整」が非常に有効である
- わがままに見える言動や作り話は、本人の意図的な嘘ではなく脳の障害による症状である
- ご家族だけで抱え込まず、専門機関(高次脳機能障害支援センター等)のサポートを受けることが大切
正しい知識を持ち、便利なツールや専門家の力を借りながら、焦らず段階的に生活環境を整えていきましょう。

